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 血液検査の結果、ドルーは急性腎不全は発症していないとのことだった。
 それを聞いたとき、俺は安堵のあまり病院の床にへたりこんでしまった。

「よかった……本当によかった……」

 脱力して泣き笑いを浮かべる俺の肩を、院長先生の奥さんが励ますようにポンポンと叩いた。

「催吐と排泄で脱水症状を起こしているので、今日は一日入院して様子を見ましょうね。ド
ルーくん、すぐに元気になりますよ」
「はい。どうもありがとうございます」

 立ち上がった俺は、硝子越しに処置室のドルーを見た。何度も吐いて、体力がなくなって
しまったのだろう。変わらずぐったりとしているが、苦しそうな表情は消えている。呼吸も
穏やかになっているみたいで、安心した。

 本当はこのままついててやりたいけど、俺がいてもできることはないし、入院室に移動し
たらスタッフさんたちの邪魔になってしまう。

「ドルー、明日迎えに来るからな」

 見えているかわからないけれど、俺は硝子の向こうのドルーに向かって口パクして手を振
ると、病院を出て家へと戻った。


 午前中に処置が済んだおかげで、撮影には遅刻しないで済んだ。ほとんど睡眠はとれなか
ったけど。でもまあ、ドルーが無事だったならそれでいい。

 今日はいつもの撮影スタジオではなく屋外ロケだ。場所は廃校になった校舎をリニューア
ルして作られた学校スタジオ。校庭を使っての撮影となる。運動会のシーンなのでエキスト
ラも大勢いるのだけど、とにかく暑い。本日の最高気温、三十一度。俺は熱中症にならない
よう、待機中は首筋やおでこに冷却シートを貼って過ごした。

「奏多、晴れ待ちになりそうだからバスで待機してていいよ」

 団扇でパタパタと仰いでいると、四谷さんがそう報せに来てくれた。晴れ待ちとは、その
名の通り太陽が雲間から顔を出すの待つことだ。今日は晴天のはずだったけれど、少し空が
曇り始めた。このシーンは梶監督が青空で撮りたがっているので、雲が去るのを待つのだろ
う。

「はーい」

 素直に返事をして、校舎の裏に停めてあるロケバスへと向かった。天気が相手ではいつ撮
影が再開するかわからない。日陰で待機しているエキストラさんたちには申し訳ないけれど、こちとら長丁場の撮影なので体力温存のために冷房の効いているバスで休ませてもらう。