オレは今、枕に顔を突っ伏し脳内自問自答大会を開いていた。まったく、高校に上がってから幾度目の開催だろう。
― 今日オレは何をした?
 なにも、していない。いや、学校へ行き授業を受けた。高校生なのだからそれが出来ていれば十分だろう。
― オレは充実した日々をおくれているのか?
 それは...いや、出来ているはずだ。高校生活で1番大切なテストだって全て80点以上をキープしているし、美術部での絵だって順調に描き進められている。 ほら、出来ているだろ?
― 友達は?
 目標こそ無いオレだが、もう高校2年なんだ。遊んでいる暇はないだろう?だから...今はいなくたって問題ない。

― そんな、いつも1人で目標も無くただ繰り返しの毎日を生きているオレに、生きている意味はあるのか?

 どんな問にだって理由をつけては自分を納得させてきたオレだが、最後の問には答えられた試しが無かった。毎日毎日特に楽しくもない同じことの繰り返しの日々。こんなオレに生きている意味はあるのだろうか。
 その答えを見つけ出すのは、今のオレには難しすぎる事だった。


 朝6時に起きるところから、オレの1日は始まる。毎日同じように、7時30分まで勉強をしてから食パンを食い制服を着て家の目の前にある駅に向かう。8時7分の電車に乗り、スマホでネットニュースやら何やらを見ている間に学校の最寄駅に着き、8時30分には校門をくぐる。
 そして校舎に足を踏み入れると同時に人目につかないよう心がけ、誰にも話し掛けられないまま授業を終える。そして部活の時間がくると美術室では絵だけに集中する事に努め、誰とも話さず、一人でただただ完璧を求め描いては消すを繰り返す。
 18時頃に家に帰ってからもする事はなく、勉強の予習復習に励んでいた。
 そして母親の用意した夜飯を食って趣味の読書をし、0時には布団に入り、また6時に起きる。
 これが高校入学式以来の、オレの全てだった。

 約1年前、高校に入学した日の事だ。
 オレは高校生活をそれなりに楽しみにしていた。クラス表を確認し、廊下の一番奥にある1組に入り自分の席を探す。「」の席は一番窓側の後ろから3番目だった。ところがそこは、前後と右側が全員女だったのだ。運がなかったと少々ガッカリしながら席に付くと、なんとその3人が、知り合いなのだろうか、オレを挟んで会話を始めた。オレは黙って大人しくしていたが、次第にキャッキャと声が大きくなってゆき耐えられなくなってつい、
「声、でかいんだけど」
と、思ったままに声に出してしまった。面識のない相手にこんな言い方をしては、さすがにマズかったと思ったが、その3人の女は顔を見合わせると大人しくなったので、まぁいいかと思い、再び担任教師が来るのを大人しく待った。
 まさかこのたった一回の発言で、これからの高校生活がこうなるとも知らずに。

次の日。
 今日から授業が始まると楽しみに教室に入ると、今度は知らない女がオレの席に座り昨日の3人と喋っていた。あぁ女だる。
「あの、ちょっとどいてもらっていいっすか。」
これでも丁寧に言ったつもりだ。なのにその女からは非常識な言葉が返ってきた。
「誰お前。今喋ってんから無理」

......。

誰お前はこっちの台詞だ。どいてもらわなきゃ困る。
「この席オレのなんです。ホームルームもう始まるんで、自分の席戻ってください。」
これだけしっかり言えばいい加減どくだろう。
そう思ったのにその女は、突然オレの顔を見上げると、いきなり声を張り上げて言った。

「あぁ美穂、さっき言ってた昨日のヤツってコイツか。確かに、顔も身長も微妙〜。ザ陰キャって感じ!」

 女はバカにしたように笑いながら言った。その声はクラス全体に聞こえるような大きさだった。昨日?オレなんかやらかしたっけ。てか美穂って誰だよ。しかもどかねぇってなんだコイツ。頭悪いのか。

 入学してまだ2日目だからなのか、元から静かだった教室がさらに静まり返った。
 すごい注目されてるんだが本当にコイツなんなんだ?どうしたものかと頭をフル回転させていると、ホームルーム開始のチャイムが鳴ったので、女はオレをもう一目見ると自分の席に戻って行った。
 なぜオレは目を付けられているんだと首を傾げながらようやく椅子に座ると、クラスのほとんどの人間がオレに、哀れみの顔や困った顔を向けていた。

 それからというもの、オレはクラス全体から避けられるようになっていったのだった。