「ん……」

そうしてビニール袋からアイスを一本取り出すと、私にそれを押し付ける。

「へっ?」

「食べるだろ冬月も」

私は八島からアイスを受け取り、少し距離をとってベンチに座った。
外装から取り出した棒付きアイスは、涼し気な青い色で、私はしばらく口を付ける事もせずにそれを見つめていた。

何を話せばいいのだろう。
八島は笹山の様に向こうから話しかけて来るタイプでもないし、趣味や好みはステータスでわかっていても、私は自分にコミュ力があまり無い事をすっかり忘れていた。

そんな私がやっと振った八島への話題、それは……

「や……八島って、自転車通学なんだね?」

見ればわかる。
どうでもいい事だった。

「うん……」

「あっ、私も自転車なんだ!」

それも見ればわかる。
どうでもいい事、第二弾だ。

「へ~っ……」

めっちゃ興味無さそう!
そりゃあそうだろう……、こんなよくわからないただのクラスメイトの自転車通学の話題とか、私だったらアイス奢られていようがなんだろうが途中退席するレベルだ。

「ごめん」

思わず謝罪してしまった。

「何が?」

「えっ? あっ、ほらつまんない話しして……」

「つまらない話し?」

「いや、ほら、私が自転車通学とかぶっちゃけどうでも良くない?」

「……そうなの?」

えっ?
何この反応は……。

「普通は……そう、じゃない?」

「そうなんだ……」

八島はアイスに齧り付いて、そのまま一気に食べ終えてしまった。

はっ!
ワケのわからない会話をしていたら、貴重な八島イベントが終わってしまった。

どうしよう。
何か会話、会話……

「冬月はさ……」

私があたふたと必死に会話を探していると、あろう事か八島の方から話しを振って来た。

「好きな人とかいるの?」

────っ!?

私の時間が一瞬止まった。

まさかの八島から、急にそんな……
普通なら好感度70%超えでもなければ発生しない様な会話が!?

ステータスを一応確認、だがやはり好感度は測定不能のままだ……。

「へっ!? はっ!? えっ!? なっ……なんれっ!? ……っ!!」

最後の方は声が裏返った上、舌まで噛んでしまった。

「好きな人いる?」

コレは……どう返答するべきなのだろうか?
NOと言うのは現状、周りに好意を持ってる者がいないという事だが……、つまりそれは八島も含まれる訳で、イコール脈ナシと思われそうだ……。
だが、YESといえばそれは八島以外の誰かも含まれる。
やはり脈ナシと思われるのでは……!?

「えっと……あのっ……」

「冬月、俺さ……」

えっ?
そんなまさか……!?
こ、告白っ!?
私告白されるのっ!?

そう、私が身構えていると──

「俺、好きな人いないんだ」

「…………はっ?」

私は突然の八島のよくわからない告白に、頭の中が混乱し真っ白になった。

「ハハっ、つまらない話しだろ?」

「つまらない……話し?」

「だって、さっき冬月も俺につまらない話しだって話して来たから、俺もつまらない話しした」

────!?

八島──

コイツ……
もしかして……
すっごい変な人なのかも!?

「えっ……えっ……?」

ただパニくる私に、八島はニッと白い歯を見せて笑いかけてくる。

「女子って、好きじゃない? そういう話」

「へっ……? あっ、あーうん……そうだね」

ふと頭に雪の顔が思い浮かんだ。
確かに、雪は毎日毎日飽きもせずに恋バナしかしていない。

「でしょっ? でもさ、俺とかにはあまり興味無い話しなんだよねそれ……」

「まあ、うん……そうかもね……」

「俺は自転車通学の話しのが好きだよ」

「へっ?」

「あと、冬月が自転車通学だって話しのが好きだし興味ある。つまらない話しじゃないよ」

「えっ……? う、うん……」

なんだろう、結果的にフォローされたのだろうか?

「でもさ、本当は……冬月に好きな人がいるかは興味ある」

「えっ!? なっ、何でっ!?」

素直に疑問がポロリと口から出てしまった。

「う~ん……説明しないとダメ?」

「ダっ、ダメっ!!」

私の圧に押されて、八島はポリポリと頭をかいて深くため息をついた。

「俺、ずっと見てたから」

「へっ……?」

コレはもう、告白と言っておかしくないのではないだろうか?
普通ならここで……

「ほら一学期の時、冬月が俺の前の席だったろ?」

「あっ? ああっ…… 」

「だから、見たくなくてもいつも視界に入ってて」

私は八島にとって見たくなくても視界に入ってくる、映画観に行ったら前の席の人が座高高くて、画面観る度にその人の頭が視界に入るみたいな……
そんな存在だったのか?

「だから、観察してたんだけど」

「観……察……?」

私は八島にとって夏休みのアサガオみたいな存在、もしくは自由研究対象という事だったのだろうか?

「俺、昔から人間観察趣味だから」

「そうなんだ……」

アレ?
そういえば一学期の頃、よく八島からガンを飛ばされていたのだが……アレはもしや観察していただけだったのか?
んっ、もしかして……

「ねぇ、八島ってさ……もしかして目、悪い?」

「えっ? 目? うん、あんま視力良くないかも……」

ああ、やっぱり。
八島はただ目が悪い。
で、周囲をよく見ているのがガンを飛ばしてる様に思われていた。
多分それだけで、不良とか怖い人では無い善良な生徒だったのだ。

「だから、よく先輩とかにも睨んでんのか!? って勘違いされるな、それで喧嘩売られたりするけど、俺んち格闘技の道場だから全部返り討ちにしてたけど」

善良な……生徒は言い過ぎだった。
やや、暴力的だがそれは自衛の為らしい。

思っていた【怖い人】という八島への印象はもうとっくに消え去り彼は今、私の中でただの変なヤツという位置付けになった。

「あっ! それでさ、冬月っていっつもスマホでゲームしていて、ゲームの中のキャラクターの話ししかしてなかったし、あとほらカバンとかに付いてるその缶バッジとかスマホケースとか、全部そのゲームのヤツなんでしょ?」

「えっ……あっ、うん……」

「それでさ、俺冬月の話し聞いてて、ちょっと安心したんだよね……」

「安心……?」

「周りが誰と付き合ってるとか、別れた~とか女子はほとんどそんな話ししてて、でも冬月はさゲームの話ししてる時が一番楽しそうだった」

つまり、私は他の女子達と違って、恋バナよりゲームの話しばかりだと……
まあ、そうなんだけども……

「それで……何となく、俺と同じなんじゃないかなって」

「同じ……?」

私はただ首を捻るばかりだ。
八島は別にゲームが好きな訳じゃないだろうし、八島と私の共通点なんて今の所思い付かない。

「うん……安心したんだよね、俺と同じ人がいたって……」

「何が?」

私は答えが見つからず、少し苛立って八島に答えを求めた。

「好きな人がいない」

「えっ……?」

「冬月も俺と同じで、恋愛をしていないって事……」

「はっ!? ちょっと待って、私は……」

確かに私は彼氏とかはいないし、付き合った事もまだ無いけど……
けど、私だってちゃんと好きな人くらいは、ほんの数時間前まで柊先輩の事が……
事が……