まさかこんなグッドタイミングで先輩に会えるなんて!
これはもう運命かもしれないっ!!
「早く並ぶよ笹山!」
「へっ? あっ、ああ……」
私は笹山を引き連れ足早に列へ並ぶと、早速柊先輩のステータスに注視した。
名前:柊 司(ヒイラギツカサ)
年齢:18歳
職業:学生
容姿:88
性格:70
モテ値:90
好感度:20
わかってはいたが好感度は低い。
そりゃ面識も無いし話した事すら無い、名前すらきっと知らないのだから、寧ろ嫌われてないだけ良い方だし、そんな全く知らない一生徒の私に好感度20もある先輩は、やはり天使の様に慈悲深い証拠だと思った。
それより、これからこの好感度を上げるにはどうしたらいいのか、柊先輩を攻略する事こそが目的なのだから……
とりあえず、ヒントが必要だ。
先輩の好みや趣味、そういったモノを知る事が大事なワケだ。
私は先輩のステータスを読み進めた。
趣味:ショッピング(ママと)
んっ?? ママ??
ママと言われて私の中に思い浮かぶのは、水商売の人だったが、恐らくコレは先輩のお母さんという意味のママだろう。
特技:肩もみ(ママに上手と言われる)
ママ…………
またまた登場のママである。
なんとなくだが、この二行で感じ取ってしまった。
そして、先輩に告白した数多の女子生徒が、誰一人として彼を振り向かせられなかった理由も……
噂では読モをしてる人気のある女子生徒や、隣町の高校の有名な動画配信アイドルからの告白も断ったらしい。
もう、最後まで見なくてもいいかもしれない。
そう思ったが、この先はただの好奇心で見てしまった。
好みのタイプ:ママみたいな人、叱ってくれる人、ドS
んんっ!?
もうママの登場は予期していたが、最後!
最後のは何っ!?
いやいやいや、もう柊先輩の事は諦めよう。
っていうか、無理だわ。
もう答えは大体わかっていたが、念の為見た※の付いた欄外の所には……
極度のマザコン・ドM
と、あった。
一つだけならまだ良かったかもしれない、それでも中々受け入れられるモノでは無いと思う。
さすがに二つは……、何だかもう先輩を見る目まで変わってしまった。
「おい……おーいっ冬月? どうかしたのか? 平気?」
笹山の声にはっとなり、我に返れば次はもう私達の順番になっていた。
「……うっ、うん、ちょっとボーとしちゃってた」
私は一歩柊先輩の前へ歩み出ると、ならべく平静を装って学年とクラスを告げた。
「1Cです……」
柊先輩は天使の様な笑顔を私に向け、机上のリストと照らし合わせて、それからまとめられているクラス人数分のプログラムの束を、私に手渡してくれた。
もちろんまた、後光が差すような笑顔と共にだ。
だが、私はそれに侮蔑な視線で返し、無言でそれを受取った。
以前まで、ほんの数分前までだったらこの笑顔に一瞬にしてやられていた所だろうが、今の私は違った。
柊先輩への憧れ、恋心、尊敬(全部私の一方的な)そういった感情全てを踏みにじられたという(かなり身勝手な)思いから、私はまるで汚物、いやゴミ虫でも見る様な視線を無意識に先輩へと向けてしまっていた。
「冬月……?」
私の今にも柊先輩に何かするんではないか、というくらいの異様な態度に笹山は気付いた様だ。
「えっと……何か僕失礼な事とかしちゃったかな?」
さすがに普段周囲からこんな態度をとられた事などなく、こんな事に免疫も無いであろう柊先輩も気になったみたいだ。
「…………」
先輩に説明したところで理解はされないだろう、それに先輩がマザコンのドMの事実は変わらないのだから……。
私は無言のまま紙の束を抱え柊先輩に背を向けると、出入口の扉へ早足で真っ直ぐ向かった。
「冬月~?」
頭の中は柊ショックでいっぱいで、すっかり笹山の存在を忘れていた。
「なあ、アノ先輩となんかあったのか?」
まあ、普通ならそう思うとこだろう。
けれど、はっきり言って私は何もされていない。
それどころか、先輩は委員会の仕事を真面目に全うし、私にクラス分のこのめっちゃ重たい紙束を渡してくれただけだ。
「何も無いよ」
「……なんか言われたとか?」
先輩との会話なんてさっきのが初めてだ。
しかも私は先輩に向かって1Cとしか言ってない。
それで一体、何を言われる事があるのというのだろう……。
随分難易度の高い大喜利だ。
「違うよ」
「ホントに? ……って、あっ、いやゴメン、別にオレ詮索しようとしてるんじゃなくて……」
うん。
コレ、私がゲーム画面の中でなら何度も見て聞いたセリフとシチュだわ。
笹山は少し顔を赤らめて俯く、もう画面越しならこんな男子とのやりとりも何万回も観て来ているのに、いざ現実でそれを目の当たりにしてしまうとゲームの時の様なテンポの良い返しは出来そうにない。
それに、ゲームの中ならもうこんなセリフをキャラが発する時は十中八九私に気がある。
改めて笹山の私への好感度を確認した。
「……き、きゅうじゅう」
コレはもうあと一回イベントが起きたら告白されるレベルでは?
つか、笹山チョロ過ぎるぞ!
チョロ山だぞ!?
「90? えっ?……何が?」
「へっ!? あっ、えっと……ああ、このプログラム90キロくらいありそ~って……」
「ご、ごめん! オレが持つよ!」
「だ、大丈夫だよ」
90キロあるとか言って大丈夫なワケは無い。
自分で自分が馬鹿だと思う。
「ほら、かして」
笹山は私の手から紙の束をひょいと取り上げる。
その時、笹山の指が微かに私に触れた。
私はすぐに手を引っ込めて、笹山に謝罪と感謝を伝えた。
「ご、ごめん……あっ、ありがとう……」
「んっ……」
あとは、二人無言で教室に戻ったワケだが……
もうコレは私はほぼ笹山ルートに入ってしまったという事なのではなかろうか?
別にそれが悪いワケではないのだが、なんというか攻略した感があまり無かったというか……
ゲームでもたまにそういったキャラが存在するが、私はどちらかといえば攻略難易度の高いキャラのが好きなのだ。
こんな所で変なゲーマー魂に火が付いてしまったのかもしれない。
「用事って、実行委員のヤツだったんだ?」
教卓の上に笹山が持っていた紙束を置いたのを見届け、自分の席の方に戻ると既にお弁当を食べ終え食後のパンを齧っている雪に出迎えられる。
「う、うん……まあね」
私はやれやれと椅子に座り、そして改めて教室内を見渡した。
このクラスで攻略が難しそうな人物……
その時──
キュルルルル……
と、なんともマヌケな音が自分の体からした。
そういえば、今日は遅刻しそうで何もお昼を買って来ていない事に気づく。
私はもう一度席から立ち上がった。
「さくら? どうかした~?」
「お昼……買ってくんの忘れてた! 購買行って来る」
「えーっ今から~?」
いつも競争率の高い購買のパン、恐らく今行ってもほとんど残っていないだろう。
だが、空腹には適わない。
なんでもいいからお腹に入れないと、午後の授業で死んでしまう。
「昼飯……ねーの?」
突然、私はまた背後から声を掛けられた。
今日はやたらと後ろから声を掛けれる気がする。
振り向いた私の前にいたのは、以外な人物だった──