夜中までずっとゲームをしていたから、変なモノが見えてるのかも……。

何度か瞬きを繰り返していると、いつの間にか信号が青に変わっていたらしい、私の周りにいた人々はもう前に進みはじめていた。

『……気のせい……だよね』

ボーッとしている場合じゃなかった、私は今が1分・1秒でも惜しい事を思い出すと再び一心不乱に自転車を漕ぎ出した。

ゲームのプレイ中なら時間で回復する体力がなかなか堪らず、1分がとても長く感じアプリを開いて閉じてを繰り返してるのに……

今は、倍速かといわんばかりのスピードで時が進んでゆく

ようやく学校に到着するとさっさと自転車を置き、こんなに走ったのはいつぶりだろうかというくらいの速度で昇降口に向かった。

上履きに履き替えたところで、ようやく遅刻を免れた事に胸を撫で下ろし、やっと落ち着いてきた。
教室へ向かおう……
そう思った時だ──

『えっ……?』

また、まただ!
先程、信号待ちをしている時に見たサラリーマンの周りに見えたのと同じステータス。

それが、視界にいる男子生徒全てに表示されている。

「……ナニ……これっ?」

思わずそんな言葉を声に出してしまった。

廊下奥から来た頭頂部の後退が著しい、生物の先生にまでステータスが表示されている。

とりあえず、教室に行こう。
すれ違う男子生徒や男性教諭、全てに表示が
出ていた。
やはり、女子生徒には何も表示は無い。

夢? 幻覚?

少し考えてコレが自分以外にも見えてるのか、それとも自分だけに見えているのかが気になってきた。

「おはよう、さくら」

「ひっ!?」

いきなり後ろからポンと肩を叩かれ、上ずった声を上げてしまった。

「ちょっと~、びっくりしすぎ~」

「あっ……ああっ、うっ、うん……ごめん」

「どうかしたの?」

私は思い切って雪に聞いてみる事にした。

「ね、ねぇ……雪あのさ……アレって……見える?」

「アレ? アレって?」

「うん……アレ……ステータス……」

「……ステー……何?」

「いや……だから……その……」

私は、丁度その時教室に入って来た笹山の頭の上の方を指さした。

「はっ?」

「いや、だからアノ……見えない?」

私達の視線に気づいた笹山がこっちを向き、一瞬目が合ってしまう。
慌て視線を逸らし俯いた。

「だから……その……見えない……の?」

「えっ? ヤダ……もしかしてお化けとか?」

「いや、違っ……」

私達がそんな全く通じ合ってない会話をしていると、教室に担任の塩田が入って来た。

塩田はゴリ田というあだ名が付いているといえば、大体どんなヤツかは想像出来ると思う。
筋肉バカな暑苦しい体育教師だ。

「ほら~お前ら~席付け~」

もちろん塩田の上にもステータスが表示されている。

名前:塩田 豪(シオタゴウ)
年齢:34歳
職業:教師
容姿:52
性格:60
モテ値:40
好感度:30

私はその時初めて、まじまじとそのステータスみたいなモノを見る事が出来た。

名前や年齢それから職業の表記の他に、好感度等が数値化されている。

「あっ、そうだ冬月と笹山~」

「はっ、はい!?」

私は驚いて思わず上ずった変な返事をしてしまった。

「昼休みに視聴覚室で体育祭実行委員は、クラスの全員のプログラムを取りに行ってくれ」

「あっ、はい」

私がゴリ田と会話をすると、ゴリ田のステータスアイコンが何故か更に拡大され、数値の下にまた違うデータが表示された。

趣味:筋トレ、スイーツ食べ歩き
特技:バク転、お菓子作り
好みのタイプ:優しくて甘えさせてくれるお姉さんタイプ

あまり知りたくない情報だった。
というかいらん情報!
ゴリ田が甘えん坊だとかそんなの想像もしたくないし、これからそういう目でコイツを見てしまう……不快感しかない。

で、やっぱりそんな自分の性癖やらを自分の受け持つ生徒に大っぴらに公表してる塩田も、そんな知りたくなかった情報を見せ付けられているクラスメイト達も、誰一人として反応が無い事から、やはりコレは私にしか見えていないものらしい事がわかった。

一体、どうして?
何の為に?
それはわからないが、ゲーム本来の目的ならこれは攻略する為の重要な情報という事だ。

『攻……略……』

そう、しかも私のこの状況は戦闘シュミレーションでも異世界ファンタジーRPGでもない。
となると、コレは恋愛ゲームという事になる。

ステータスに表示されてるのも好感度やら好みのタイプとかだし……。

かといって、塩田を攻略したいとは微塵も思わないワケだけど……。

んっ?
でも、という事は……

柊先輩のステータスも見えるって事!?

閃いたと同時に出そうになった声を、必死に両手で塞いだ。
コレは……神様が私にくれたチャンスかもしれない!

彼氏を作れ作れとうるさい雪を、ようやく黙らせる事が出来るかもしれない。

普段自分にあまり自信がある方ではないが、コレがゲームなら話は別な気がして来た。
なんせ私は、相当な場数をゲームでは踏んで来ているからだ。

突然自分が、ゲームの主人公キャラになった
気がして来た。

私は脳内でシュミレーションしてみた。
ファーストコンタクトはお昼休みにしよう。
そう心の中で決意して、あとはひたすら授業が終わるのを待つ事にした。