アレ?
私、柊先輩の事ホントに好きだったのかな……?

「高校入ったらさ、みんな突然知らない間に告白して、付き合って別れて……って、俺全然そんなの意識してなくてさ」

確かに、私も気付いたら中学からの友人だった雪には彼氏が出来ていたし、いつの間にかクラスの中に恋人同士が生まれていたりした。

「みんな知らない間に好きなヤツが出来て、それでいつの間にか付き合ってる……俺、好きなヤツとかいないから……つか、好きってよくわかんねーし」

「私……だって……」

好きな人くらい、と思ったけど声は出なかった。

「あっ、もしかしている? 好きなヤツ?」

「……今は、いない」

「ふーん……参考の為に聞きたいんだけど、好きってさどういうの?」

「えっ……?」

私は、今まで使った事の無い脳ミソの部分まで使う程に考えてみた。

「一緒にいて……楽しいとか?」

「それなら俺は家族といても楽しいし、こうして今冬月と話してんのも楽しいけど?」

「えぇっ!?」

あまりに突然な事に、持っていたアイスを落としそうになった。
アブナイアブナイ……。

しかし、慌てふためく私とは真逆に、八島はとても冷静に私に疑問を投げかける。

「俺はさ、家族も友達もみんな好きだよ? でもさ、付き合うの好きとはそれは違うんでしょ?」

「うん……」

好きって、どういう事だろう?

そう言われたら私も好きって、よくわからない。
みんなは当たり前にしてるだろう恋愛が、改めてどういう事なのかと聞かれると、わからないのだ。

ただ、周りの子達はみんなそれが普通の事の様に人を好きになってるし、付き合ってるから……だからしないのがおかしいみたいになっていた。

「その違いが俺はよくわかんなくてさ、それで冬月も俺と同じなんじゃないかな~って何となく思ってた」

「そりゃ、ゲームの事ばっかだし……モテないけど……」

「へ~っ……冬月ってモテないんだ? 可愛いのに」

「はっ!?」

突然、言われなれない言葉を八島からぶつけられ、私は自分でもわかるほど一気に顔が熱くなっていった。

「俺は好きだよ、冬月」

「ふへっ!?」

変な声まで出てしまった。
八島は中身はちょっと変なヤツだが、顔はなかなか良いし、実は結構好みのタイプだ。

「冬月ちょっと似てるんだよね……あっ、ほらあそこにいる茶トラのに……」

「えっ……」

貫禄のある茶トラの野良猫が、ノシノシと歩いていき、私達の反対側にあるゴミ箱の上に乗っかった。

「あいつ、この辺が縄張りみたい」

「あっ、へ~……」

八島にとって私は、アノ数多の戦歴のありそうな野良猫と同じカワイイなのか……。
ガッカリしなかったと言えば、それは嘘になる。
猫が私の方をチラっと見て、すぐにそっぽを向いた。

「でも、こういう気持ちと違うなら……やっぱり俺にはよくわかんないや」

そう言って八島は立ち上がった。

「今日はありがとう」

「えっ……?」

その時、私は初めて彼が自然に笑った顔を見た。

柔らかいその表情は、私が今まで知っていた彼の表情とは全く違って、ああ、こんな風に笑う事もあるんだと……クラスメイトが見れない私だけが見たその特別な一瞬に、私は強く心を揺さぶられた気がした。

「なっ、何で……?」

「えっ?」

「お礼……その……わ、私……何もしてないけど?」

「アイス買ってくれた」

「それはパンの……だし……」

「ああ、俺初めて学校のヤツと放課後アイス食ったの……嬉しかった」

「はっ!? ナニそれっ……?」

八島は自転車に乗り、私に手を振った。

「また明日な~」

そうして振り返りもせず、颯爽と走り去ってしまう。
八島の背中を私はしばらく、ボーっと見つめていた。

「……なんなの、アイツ」

いや、コレは違う。
別に私は八島の事が好きとかそんなんじゃない。
決してそうではないけど、ただ……
ただ、気になっていた。

八島の事というより、八島が言った事が気になると言った方が良いかもしれない。

好きな人……
私はそう言われたら、今まで人をちゃんと好きになった事があっただろうか?

何となく憧れて、何となくアノ人が良いと思って……
付き合うとかいうイメージも、何だかボンヤリとした物で、ただみんな好きな人がいて、いずれ付き合ったりするのが、何となくそれが普通で……

だから──

ふと、冷静に考えたら本当に好きだったのか? とか、その好きな相手と付き合いたかったのか? とか、聞かれたら答えられない自分がいた。

ゲームの中のキャラクター達との方が、余程恋愛していたかもしれない……。

私は彼らの事を知ろうと必死だったし、キャラの好感度を上げるのにも一生懸命だったし、それに何よりその時間が楽しかった。
攻略出来た時は本当に嬉しかった。

「わかんなくなっちゃったかも……」

こうして、ステータスが見えた事でちゃんと向き合って興味を持ったけど、恋愛とはまたコレも違うのかもしれないし、そう考えれば考えるほど、私も八島と同じく恋愛がわからなくなってくる。

その日は一日、家に帰った後も珍しくゲームには手を付けられず、ただずっと考えていた。



翌日──

私はまた例のコンタクトを装着し、登校していた。

昇降口から教室に行くまでの間、周囲の男子生徒達を改めて観察してみると、みんな様々なステータスがあって人それぞれ違っている。

そして気付く。
見た目だけでは判断出来ない事が、とても多い事に……。

「オイっ! 人にぶつかっておいて無視かよっ!?」

すっかりステータスに夢中だった私は、何だか面倒くさそうな人と肩をぶつけてしまっていたらしい。

どうやらこの人は、田尻さんという名前で、三年の先輩だという事がステータスには表記されていた。

ちなみに好みのタイプは女教師とかなっていて、私はアダルトビデオのジャンルかよ!? というツッコミと共に思わず顔がニヤけてしまっていた。

「オイってめぇっ! ナニをニヤニヤ笑ってんだっ!?」

「えっ!? アノっ……ご、ごめんなさいっ!!」

「今さら謝ってもおせーんだよっ!!」

「す、すみません!」

田尻先輩の逆鱗に触れてしまい、何とか必死に謝ってはみるものの田尻先輩の怒りは到底収まりそうにない。

「あの……そいつがどうかしました?」

と、そこへ──
昨日、怖い人から変な人というカテゴリーにチェンジしたばかりの八島がやって来た。

「お前は……」

田尻先輩はさっきまでの怒りの形相から一転、慌てふためき一気に青ざめ、額からは変な汗まで滲ませている。

「そいつ、俺のツレなんっすけど何か?」

「あっ……あぁっ……こ、今度から気をつけろよ!」

途端に人が変わったかの様に、田尻先輩は視線すら合わせる事もなくバタバタと走り去って行ってしまった。

「平気?」

八島は私の顔を覗き込む。
私の心臓がトクりと跳ねた。

「うっ、うん……平気……」

「そっ、なら良かった」

しかし、昨日ようやくカテゴリー[怖い人]からカテゴリー[変な人]にジャンル移動したばかりだった八島だが、あんな面倒くさそうな先輩を、顔パスで撃退出来るとか、やっぱりホントはとっても怖い人なのではなかろうか? という一抹の不安が過ぎる。

「アノ先輩、俺も昔絡まれた事があったんだ……」