愛瑠萌・・・
俺は部室に向かうのを止めて、自転車に飛び乗った。

愛瑠萌・・・
どうか大怪我ではありませんように。

祈る気持ちで、自転車をこぐ。
迷う気持ちはない。
こんな時は、側にいなくちゃいけない。
今までだってずっと。そうやって来たじゃないか。



20分ほど自転車を走らせて総合病院に到着。
救急入口から入って周りを見渡す。
どうやら、愛瑠萌は診察中のようだ。

「リュウシン君」
「ああ、おばさん」
この病院で看護師をしている愛瑠萌の母さんが、すでに来ていた。

「わざわざありがとう」
おばさんの暗い顔。
嫌な予感がした。

小さい頃から、俺は怪我が多かった。
器械体操をしていれば怪我なんて当たり前かも知れないが、左右の手首と右膝をそれぞれ別のタイミングで骨折している。
そのたびに数ヶ月の練習停止となり、後輩達に抜かれていった。
けれど、愛瑠萌は今まで大きな怪我なくきた。
おそらくそれは、準備運動に人一倍時間をかけたり、体重管理を一生懸命にやったお陰だと思う。
でなかったら、身長160センチもある女子体操選手が県のトップになんてなれるはずはない。
すべては愛瑠萌の努力のたまものなのだ。


「メルモ」
おばさんの声。

その声に振り返って、俺は言葉を失った。

右足の膝上からくるぶしまでをギブスに覆われた愛瑠萌が、松葉杖をつきながら、処置室から出てきた。

それでも、
「大丈夫だから」
気丈に笑っている。

「本当に大丈夫だから、母さんは仕事に戻って」
「でも・・・」
おばさんも辛そうだ。

「おばさん。メルモは俺がタクシーで送りますから」
その場の空気を感じ取って、俺が口にした。

速くここを離れたいと思った愛瑠萌の気持ちが伝わってきた。

「そお?じゃあ、」
「大丈夫です。ちゃんと連れて帰りますから」
「リュウシン君、悪いけれどお願いね」
何度も振り返りながら、おばさんは仕事に戻っていった。

「じゃあ、帰ろう」
俺は愛瑠萌の荷物を持つ。

「ゆっくりでいいぞ。何なら、おぶろうか?」
「馬鹿、急に優しくしないでよ。私、本当に平気だから」
愛瑠萌の歩くスピードが速まる。

俺たちは病院前からタクシーに乗り、自宅へと向かった。