15分ほど歩き、家の前に着いた。

「じゃあね」
右手を振って、愛瑠萌が家の玄関を通り過ぎようとしたとき、

「メルモちゃん、寄って行きなさい。お母さん今日は夜勤でしょう?」
玄関先からばあちゃんの声がした。

「でも・・・」
一瞬困った顔をした愛瑠萌。

「いいから寄ってけよ。ばあちゃんが喜ぶから」
今さら遠慮する仲でもないだろう。

「じゃあ」
愛瑠萌は、家の前に自転車を止めた。



「お邪魔します」
遠慮がちに、愛瑠萌は台所に入ってきた。

小さい頃は平気でお互いの家に上がり込んでいたが、この年になればそうもいかない。

「どうぞ。そこ、適当に座りなさい」
「はい」

ばあちゃん手作りの煮物と焼き魚。
スーパーで買ってきた唐揚げ。
うーん。
代わり映えのしない夕食だ。

「おばあちゃん、このカボチャでサラダ作っていいですか?」
床に投げられていたカボチャを手に、愛瑠萌がゴソゴソと動き出す。

「いいわねえ。お願い」
ばあちゃんは愛瑠萌に任せたとばかり、ダイニングの椅子に座り見ている。

皮をむいたカボチャをレンジに入れてチン。
冷蔵庫からトマトとハムとキュウリ。
一緒にヨーグルトを出して、マヨネーズと混ぜる。

「うわ、美味そう」
つい手を出してしまった。

「アチッ」
「馬鹿ねえ。出来たてなんだから、熱いわよ」

それでも食べたい俺は、
フー、フー、
自分で冷ましながらカボチャのサラダを堪能した。

横では、ばあちゃんが煮物とサラダ、焼き魚をタッパに詰めていた。

「いつもすみません」
頭を下げる愛瑠萌。
「いいのよ。残ったてもったいないだけだしね」

変わらない光景だ。


愛瑠萌の家は母子家庭。
生まれるとすぐ、病気でお父さんが亡くなったと聞いた。
看護師をしながら遅くまで働くおばさんを気遣い、愛瑠萌は小さい頃から家事をこなしていた。
そんなこともあって、ばあちゃんは時々愛瑠萌に料理を持たせている。
それは同情ではなく、愛瑠萌が好きだから。