大会当日。

いつもより綺麗なレオタードを着た女子達。
応援席もいっぱいで、キャアキャアと声が上がっている。

男子の演技種目は6種目。
鉄棒、床、吊り輪、平行棒、鞍馬、跳馬
苦手な鉄棒と、跳馬が最初と最後になった。

一種目目。
鉄棒。

中学の頃、鉄棒で2度の骨折を経験している俺にとって一番の鬼門だ。
もちろん高得点なんて出るはずはない。
何とか失敗なくこなして、得意の床や鞍馬につなげたい。

「リュウシンがんばっ」
チームメイトの声援に送られて鉄棒の前に立った。


得点は10点そこそこ。
大きな減点もなく、何とか切り抜けた感じ。

その後の種目でも大きな失敗もなく、順調に演技は進んだ。

床では13点を超える自己最高得点をマークした。
着地も信じられないくらいに決まった。

「リュウ、いい感じだな」
演技を待つ間、監督もご機嫌で声をかける。

確かに、俺にしては上出来だ。
このまま、気持ちよく終われるかも知れない。
そう思ったとき、

「キャー」
場内に、悲鳴が響いた。

見ると、跳馬の着地地点で選手が倒れている。
回転しながら着地をしようとして、跳馬に足を打ち付けたようだ。

集まる人々。
運び込まれるタンカ。
救急車の音。

瞬間、俺のヒビリが戻ってしまった。


大会は20分ほどの遅れで進んだ。
怪我をした選手には気の毒だけれど、みんな自分の演技で精一杯。

そして、とうとう俺の最終種目。
跳馬。

さっき怪我をした選手と同じ『ツカハラ』を飛ぶ予定しにしてる。
しかし・・・無理だ。
ただ転回で飛び越すのが精一杯。
そう思った。

正直、『ツカハラ』何て小学生だって飛ぶ。
でも、俺には飛べない。
高1で膝を怪我して以来、怖く飛べない。

「次、135番」
審判が番号を呼び、緑のフラッグを上げる。

「はい。お願いします」
大きな声で返事をし、右手を挙げた。

その時、
「「がんばっ!」」
の声の中に、

「リュウシン、いけるよ!」
ハッキリ愛瑠萌の声が聞こえた。

そして、病院で横たわる真奈の顔が浮かんだ。

一体俺は何をしてるんだ。

「リュウ、いけー」
愛瑠萌の声。

俺は走り出し、ツカハラを・・・飛んだ。

着地で手をついてしまい、点は伸びなかった。
インターハイどころか、入賞もしなかった。
下級生にもこぞって負けてしまい、みっともない結果に終わった。
でも、俺は頑張った。

俺の体操人生に悔いはない。