「ちょっと、リュウ。プロテ忘れてる」

帰り道。
いつものように自宅に向かっていると、自転車を押しながら愛瑠萌が走ってきた。

ああ、プロテ・・・本当だ。体育館に忘れてた。

「はい」

鉄棒用のプロテクターを受け取り、
「サンキュウ」
俺たちは自転車を並べて歩き出した。

俺と愛瑠萌は同じ年の同じ月生まれ。生まれた時からいつも一緒だった。
お互いに親は仕事を持っていて、同じ保育園に預けられて育った。
腕白で外遊びが大好きだった俺と、俺以上に元気いっぱいの愛瑠萌。
1人ならためらうことも2人だと大胆になったりして、親たちはだんだんと俺たち2人に手こずるようになる。

「あなたたちは、何でいっつも怒られるようなことばかりするのよっ」
と、母さんや愛瑠萌の家のおばさんに言われていた記憶が残っている。

そして3歳になった時、親たちはある手段に出た。
「そんなに元気をもてあましているなら、運動しなさい。ここならいくら走ってもいいから。でも、遊びじゃないんだからね。ふざけたらダメ。怪我するの。わかった?」
「「うん」」
母さんの表情が真剣で、愛瑠萌と2人で頷いた。

そこは街の体操クラブ。
小さな体育館に色んな器具があって、当時の俺たちには遊園地のように見えた。
フワフワのスポンジプールにジャンプしながら、いい遊び場を見つけたとしか思っていなかった。

体操クラブに通うのは、決して嫌ではなかった。
仲間もいたし、出来る技が増えていくのも嬉しかった。
もちろん挫折もあって、中学の頃はやめることばかり考えていたが・・・
今もこうして続いているのは愛瑠萌のお陰かも知れない。