「がんばっ」
「いけるよ」

今日も声援の声が響く体育館。


ここは日本の片田舎。
人口数千人の町に、中学校と高校が1つ。
電車もバスも日に何本かしか止まらない、車がないとどこにも行けないところ。
しかし、
3年ほど前に隣町に大手電子メーカーが進出したお陰で、人口は増えつつある。

「すみませんーん、鉄棒の補助をお願いします」
遠くの方から声がした。

体育館中に響く声の持ち主は、田中愛瑠萌(タナカ メルモ)。高校3年生。

俺、長谷川隆信(ハセガワ リュウシン)とは家が隣同士で、小さい頃から一緒に育った幼なじみだ。

「愛瑠萌の奴、気合い入ってるな」
体操部の顧問、吉田先生の声が漏れる。

まあ大会前だし、気合いだって入るさ。

「隆信、お前ももう少し田中を見習え」

ヤベ。
油断していると俺の方にお鉢が回ってきた。

「大体お前さあ」
「ああ、俺、床入ります」
慌てて、背中を向けて駆け出した。

ッたく、いちいち比べないで欲しいよ。
俺と愛瑠萌は違うんだって、どれだけ言っても誰もわかってくれない。
ただいつも一緒にいる、それだけなのに・・・