同居人は幽霊サマ

触れられている部分は、とても優しい触れ方で、反面とてもひんやりしていた。
無邪気に笑う彼に、思わず目を奪われた。
焦りなのか、緊張なのか、不安なのか、言葉にし難い感情が押し寄せる。


「もうっ、からかわないでよ。
ていうか、近い、あっち行っ……」

彼の手を振り払おうとしたその時。


「えっ」


ヒヤッとした感触があるだけで、何も掴めない。
掴めないどころか、当たらない。
あたしが伸ばした手は、あたしの頭に伸びている彼の腕を、スッと突き通っているのだ。
あたしと彼とが交わっている箇所だけが、半透明のような、透けている状態で。



「なに……これ……」


あたしが腕を左右に振っても、ちっともぶつからない。
恐る恐る彼の胸元に手を伸ばすと、ぶつかったと思った瞬間、またあのヒヤッという冷たさを感じる。
そのままあたしの手は、彼の胴体を貫いた状態で宙を舞った。



「だから言ったろ?幽霊だって」


悲しいような、切ないような、でも諦めているような、そんな笑顔だった。


「嘘……なんで?」



あたしは今、人生で最大の驚愕で異様な光景を目の当たりにしている。
目の前の彼は、自分を死んだ人間だと説明し、その証しのごとく、彼には一切触れることができずにいる。
いや、"触れる"ことはできているのかもしれない。
交わることができないのだ。



彼から触れることはできても、こちらから彼に干渉することはできない。
現実で起こり得ないことが、今まさに起こっている。



「なんでって聞かれてもなぁ。
俺にも本当にわかんないんだよ。
だから、お願いなんだ、俺がここにいる理由を一緒に探してほしい」

「理由?」

「そ!俺がなんで死んだ今でもここにいるのか。どうしたら、成仏できるのか」




社会人になったばかりの春。



突如手に入れてしまった霊感のせいで、あたしはこの幽霊の青年と、奇妙な同居生活をすることになった。



これから語られるのは、そんな二人の、現実と幻想が交わるたったひとつのお話――