今日は遅くなっちゃったなぁ。


いつも通り仕事をして、帰り道に神社に寄って、家に帰る。
なんの変哲もない日々。
夕焼けが終わり、もうすっかり辺りは真っ暗になっていた。

この桜並木は、桜の開花シーズンになると夜にライトアップされるのだ。
なんでも、神社の隣家にお住まいの篠宮(シノミヤ)さんが大の桜好きで、町内会の方たちとライトアップのイベントを始めたのだとか。

あたしも神社に参拝しに来た際、一度話したことがある。
篠宮さんはとても優しくて、どこか不思議な雰囲気を纏ったおばあちゃんだ。
今年80歳を迎えるというが、腰は曲がっておらず、着物姿がとても凛とした佇まいだった。



上月先輩……お洋服の仕入れは…順調…ですか……っと。



緩む口元をぎゅっと引き締めながら、メッセージを送る。
海外にいても連絡が取れるって、本当に便利な世の中だなぁ。



もうすぐアパートに着く頃。
スマホ画面から顔をあげると、違和感を覚えた。



あれ?部屋の電気ついてる?


今日のシフトは遅番。
そのため、起きたのも遅かった。
今朝、電気をつけた記憶がない。


おかしい。



いやいやいや、まさか侵入者?
いやまさか。
ただの消し忘れ?


少し不安になりつつ玄関の鍵を開けると、ガチャッと音がした。
鍵は間違いなく閉まっていた。



なんだ、やっぱり消し忘れか。



ヒールの高いパンプスのせいで、足の裏が少し痛む。
深くため息をついて玄関を抜けると、そこは見慣れた自室。



――その日は突然やって来た。



「おかえり。今日は遅いんだね。残業?」


見知らぬ男の声がする。
前方からだ。
彼は玄関に背を向けて配置されているソファーに座って、こちらに顔だけ翻している。


明るい髪色で、首が隠れる程度の長い襟足。
愛嬌のある瞳と、その左目のそばには泣きぼくろ。



「だっ、誰!?」



一瞬で血の気が引くのがわかった。
何者かもわからない奴が、突然自分の部屋に現れたのだから。


「不審者!?泥棒なの!?警察呼ぶから!!」


パニックになりながらスマホを取り出すと、彼は驚いたように言った。



「あんた、俺のこと見えてるの?」

「……は?」



目を丸くしているのは、きっとお互い様だろう。