先程から蕩けるような表情で、花梨の話に耳を傾けている男の子。
ハニーブロンドの髪に、金色の瞳。
明らかに日本人ではない色合いと、人間離れした美しい容姿。
狐月瑶太。
花梨を花嫁に選んだ、妖狐のあやかし。
あやかしの中では上位にある存在で、資産家でもある彼の家には、花嫁の家ということでいくらかの援助をもらっているらしい。
それにより、花梨を学校に入学させるために作った借金も返済したとか。
両親以上に花梨を溺愛している彼とは、何度か顔を合わせたことはあるものの、言葉を交わしたことはない。
そもそも、柚子はこの家に寝に帰るぐらいだし、土日は祖父母の家に居座っている。
顔を合わせたのはほんとに数えられるほど。
顔を合わせたとしても、瑶太は花梨のことにしか意識がいっていないので、ほとんど目が合うこともない。
ただ花梨の姉でしかない柚子のことなど眼中にないのだ。
だが、花嫁とはそれだけあやかしにとって大事な存在らしい。
他が見えなくなるほどに。
柚子は思う。
それほどまでに愛されるとはいったいどんな気持ちなのだろうか。
何を置いても、全身全霊を掛けて愛される花嫁は幸せなのだろうか。
花梨を見る限りでは、とても幸せそうだ。
絶対に柚子には出せない、幸せいっぱいの笑顔。
空気からして、愛されている事が分かる。
羨ましくないと言ったら嘘になってしまう。
両親からも、彼氏からも愛されている花梨。
同じ家に生まれた姉妹なのに、どうしてこうも違うのか。
祖父母は柚子の事を気に掛けてくれる。
それはとてもありがたく、それがどれだけ柚子の救いになったことか。
けれど思ってしまう。
私を愛して……。
私はここにいるんだよ。
そう、両親に言えたらどれだけ楽だろうか。
当然のように柚子を残して会話を成立させている、母と花梨と瑶太。
まるでいない者として扱われるのは、何度期待するのは諦めたと自分に言い聞かせていたとしても辛いものがある。
たちが悪いのは、そんな母達にはそんなつもりが一切ない事だ。
柚子の苦しみに気付きすらしない。
それに唯一気付いてくれた祖父母だが、最近は体の調子も悪いという事も多く、あまり頼ることもしづらい。
自分にも、花梨を選んだ瑶太のように、自分だけを愛してくれる人がどこかにいるのだろうか。
そうだと思った大和は簡単に裏切られた。
そんな事を思ってすぐに、くだらないと切り捨てる。
悲劇のヒロインぶったって、助けてくれる者などいないというのに。
ああ、早く大人になりたいと、柚子は思う。
そうすれば、すぐにこの家から出て自活するのに。
未成年ではそれすらできない。