***


 玲夜の霊力によって産み出された二人の小さな鬼。

 白髪の子鬼と、黒髪の子鬼。
 名前はまだない。


 柚子のためにと産み出された子鬼は見目も愛らしく作られた。
 しかし、柚子のためであるため、霊力を最大限込めて作られた、最強のボディガードでもあった。

 東吉ぐらいのあやかしなら捻り潰す力を持っているのだが、その愛らしさからは伝わらないようで、学校で子鬼に怯えているのは霊力を感じられる東吉だけである。


 玲夜より、柚子の護衛を任せられた子鬼達には、それとは別に玲夜から極秘任務を受けていた。


 最優先は柚子の護衛であるため、学校では必ず柚子の目の届く所にいるが、男の子の姿をしている子鬼達を、柚子は体育の時の着替えやトイレには連れていかない。

 柚子の目から離れるその時、子鬼達の極秘任務が始まる。


 透子と共にトイレに立った柚子が見えなくなると、残された子鬼は素早く動く。


 目指すは一人。

 柚子の元カレ大和である。


 子鬼は愛らしい笑顔を浮かべながら大和に近付くと、机の上にあったペンケースをひっくり返し床にバラバラと落とした。


「おい、なにすんだ!」


 当然大和は怒りを露わに怒鳴る。

 しかし、子鬼が目に涙を浮かべうるうると怯えると、教室内にいた女子生徒達から避難の嵐が大和に浴びせられる。


「ちょっと、子鬼ちゃんを虐めてるんじゃないわよ!」

「泣いてるじゃないの!」

「可哀想に」

「いや、だって、こいつらが……」


 大和の訴えは、女子達の睨みの前に小さくなっていく。
 その時大和は見た。
 子鬼が大和にしか分からないようにニヤリと笑ったのを。

 しかし、そんなことを誰に言っても信じる者はいなかった。



 子鬼達の大和への嫌がらせはこれだけに留まらない。


 ある時は膝かっくんをされ、廊下に倒れ込み。

 ある時は体操服にお絵かきをされ、先生に怒られ。

 ある時は靴にスライムを仕込まれ、足の裏がスライムまみれになり。

 またある時は、お昼の弁当をシェイクされ、ごはんとおかずがぐちゃぐちゃになったりと、地味ないたずらが横行した。

 それも何故か大和だけ。


 その度に、大和怒る→子鬼うるうる→女子から非難→子鬼ニヤリ。
 というループが、柚子の知らぬ所で繰り返されていた。



 これら全て、愛しい愛しい柚子を悲しませ、一方的にふった大和への嫌がらせ。
 それが、玲夜から子鬼達に命じられた極秘任務であった。


 そして、今日も子鬼達は任務を果たすべく、柚子のいない隙を狙うのであった。