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 いつも通りの変わらぬ日常が戻った来た。

 朝起きて、朝食を取り、制服に着替えて、学校へ行く。

 教室に入れば友人達と挨拶を交わして、他愛ないお喋りをする。

 何も変わらないいつもの光景。

 けれど、ここしばらくの間で、柚子の心持ちだけが大きく変わったことに気付いた者はいるだろうか。

 迷子の子供のようにいつもつきまとっていた不安。
 それが玲夜と出会ったことで、不安を取り除き、柚子を強くした。


 それまでにはたくさんの葛藤や戸惑い、怯えがあった。

 けれど、玲夜のたくさんの愛情を受け、そして柚子も玲夜への愛を確信したことで、信じるということができるようになった。 
 一歩を踏み出す強さを手に入れた。

 もう、柚子は愛に飢え怯えた以前の柚子とは違う。


「柚子、ちょっと変わったね」


 突然透子がそう言った。


「そう?」

「うん。前より明るくなった」

「そうかな?私には分からないけど、そうだとしたら玲夜のおかげかな」

「はいはい、ご馳走様。惚気はけっこうよ」

「透子だって普段からにゃん吉君とラブラブじゃない」

「付き合いは長いからね」


 そんな話をしていると、突然教室内で悲鳴が起きた。

 柚子と透子二人は、突然の声にびくりとする。
 何事かと周囲を見回すと、窓に生徒が集まっていた。


「やだ、イケメーン」

「眼福っ……」


 ほうと、溜息を吐き、頬を染める女子生徒達。
 気になった二人も窓の外を見ると、校門のところに一台の高級車が止まり、そこに見慣れた人が立っていた。


「えっ、玲夜?」

「若様じゃない。どうしたの?」

「さあ?」


 首を傾げていると、スマホに通知が。
 見ると『迎えに来た』という文字が。

 授業も終わっていたので、慌てて鞄に荷物を詰める。


「先帰るね、透子」

「また明日~」


 急いで教室を出ようとすると、行かせまいと大和が立ち塞がった。

 あれから一切話すこともなくなった大和。
 訝しげに見つめると……。


「柚子、俺さ、あれからよく考えたんだ。やっぱり花梨ちゃんのことは気の迷いだった」

「だから、何?」


 もう今さら大和が誰を好きだろうと柚子には何も関係ないし、興味もない。
 そんな柚子の肩を大和が掴む。


「俺達やり直さないか?やっぱり柚子のことが好きだって分かったんだ。遠回りしたけど、それが一番良いと思うんだ」


 教室内の女子生徒から冷めた視線が大和に向けられる。
 大和が浮気して柚子を捨てたという話はクラスの生徒なら誰もが知る話だった。
 柚子は何も言っていないが、透子が平然としてる大和に腹を立てて、大和に批判的な噂を流したようだ。

 そのせいか、以前は女子達の人気があった大和の栄光は地に落ちつつあった。

 そんな周囲の冷めた視線に気付かず、大和は続ける。


「あんな男と柚子じゃ釣り合わないよ。きっと浮気されて捨てられるのがオチだって」


 どの口が言うのかと、話を聞いていた誰もが思ったことだろう。


「俺ならそんなことしないよ。ずっと柚子のこと大切にする……へぶっ」
  
 
 なおも言葉を続ける大和に、柚子は渾身の一撃を頬におみまいした。
 尻餅をつき頬を押さえる大和に、胸がスカッとするのを感じた。


「あー、スッキリした!」 


 晴れ晴れとした顔をして、大和の横を通り過ぎた。
 そして、一目散に駆けだした柚子が向かったのは、愛しい玲夜のところ。


「玲夜!」

「柚子、おかえり」

「ただいま!」


 これから先も柚子が帰るのはこの腕の中。