後味が悪いような、何とも言えぬ感情が心の中に渦巻く。
「気にしているのか?」
暗い表情の柚子を見て、玲夜は両手で頬を包む。
「気にしてるって言ったらそうなんだけど……。何だか今の感情を言葉にはしにくいかも」
花嫁として認められなくなった花梨。
両親と共に遠くへ行かされると言っていた。
ならば、もう会うことはないのだろう。
それが、とても呆気なく思えた。
少し同情もあるのかもしれない。
柚子を見下すことで優越感に浸っていただろう花梨。
そして、花梨を止めきれず離れることになってしまった瑶太。
二人は今後どうしていくのだろうかと。
他の道はなかったのかと……。
「柚子が気にする必要はない。もうあれらは過去のものだ。これからの柚子の未来に今ある感情は捨てていけ」
捨てて良いのだろうか……?
柚子は自問自答する。そして……。
「ううん。忘れずにちゃんと持ってる。きっと忘れちゃいけないものだと思うから」
両親に甘えられなかった時の気持ち。
花梨を優先され、我慢しつつもこっちに目を向けて欲しいと願っていたこと。
そんな花梨に抱いていた複雑な想い。
いつしか覚えた、諦めの感情。
それらは今の柚子を作り上げたものだ。
そんな悲しい過去は必要ないのかもしれない。
忘れた方が楽なのかもしれない。
けれど、忘れようと思っても忘れられるものではない。
それらも柚子の一部なのだ。
ならば、覚えていようと思う。
忘れることなく、受け入れ、未来のための糧としようと。
柚子はこれまでの日々を、そして今日の日を胸に刻むことにした。
「柚子がそうしたいならそうすればいい。けれど忘れるな。辛い時は俺がいるということを」
「うん。これからもずっと側にいてね」
「ああ。いらないと言われても側にくっついてやるさ」
クスクスと笑い合う。
そっと玲夜に抱き付けば、包み込むように柚子を受け入れてくれる玲夜に心が温かくなる。
「もう宴も終わる。そろそろ帰るか?」
「うん、帰りたい」
「ああ、帰ろう。俺達の家に」
居場所が欲しいと願い続けた柚子を温かく迎え入れてくれたあの屋敷に。
優しい人達が待つ安息の地へ。