その後、お菓子を食べながら、他愛ない話をしていると、あっという間に時間が過ぎてしまった。
「おっと、そろそろ行かないと怒られるね」
時計に目をやった玲夜の父親が立ち上がる。
「今年の宴も終わりだ。皆に柚子ちゃんを紹介しに行こうか」
柚子の前に差し出された玲夜の手をとって立ち上がると、四人で部屋を出る。
会場となっている一階まで降りると、玲夜の父親のところに男性がすすっと寄ってきて耳元で何かを囁いた。
「へぇ」
何を聞いたのか、これまで見てきた笑みとは違うにやりとした毒のある笑みを浮かべ、玲夜に視線を向ける。
「どうやら、狐月の花嫁から話を聞いた両親が無断で敷地内に侵入したようだよ」
途端に目つきを鋭くする玲夜と違って、柚子は一瞬他人事のように感じていた。
しかし、すぐに狐月の花嫁とは花梨のことで、その両親とは自分の両親でもあると気付いた。
「お父さんとお母さんが!?」
もしかしたら、自分に会いに来たのかもしれないとすぐに思った。
けれど、ここに招かれない者は永遠に彷徨うことになると玲夜は言っていた。
もう関係ない人達のはずなのに、やはりどこかに情が残っていたのだろう。心配な気持ちが湧き上がってくる。
「どうなっちゃうの?」
玲夜を見上げて問い掛ける。
けれど、それに答えたのは玲夜の父親だった。
「大丈夫だよー、柚子ちゃん。今頃森で彷徨ってるだろうけど、その内誰かに回収してもらうから。まあ、宴が終わるまではお仕置きも兼ねて放置かなぁ」
「きっと最後の悪足掻きだろう。狐月からの援助を切られたら、柚子にでも助けを求めに来たというところか……。どこまでも面の皮の厚いことだ」
「えっ、そうなの?でも花梨は花嫁なのに」
狐月から援助を切られたことを初めて知った柚子は目を丸くした。
何故なら花梨が花嫁である以上、援助が切られることはないと思っていたからだ。
「狐の力を使い、鬼に目を掻い潜って柚子に接触してきただろう?そのことで苦情を入れたら、向こうの当主が怒ってそういう罰を与えた。両親は近々遠くの土地に送られるだろう。そうすれば、もう柚子が会うかもしれないと心配することはなくなる」
「そんな大事になってたんだ……」
「俺の花嫁に手を出すということは、鬼龍院に喧嘩を売るということだからな」
玲夜の言葉に納得していると……。
「妹の方もこの宴が終わった後も花嫁でいると良いけどねー」
その玲夜の父親の言葉が引っかかった。
「それってどういう意味?」
「……行くぞ」
柚子の問い掛けに答えは返ってくることはなく、玲夜に促されて歩き出した。
酒宴が行われているという大広間の扉の前まで来れば、中からざわめく人々の声が聞こえてきた。
相当な人数がいると思われ、柚子を再び緊張が襲った。
「じゃあ、玲夜君と交代ねー」
それまで自身の妻をエスコートしていた玲夜の父親が、柚子のところへやって来て肩に手を置いた。
「えっ?えっ?」
そっと柚子から離れた玲夜に、訳が分からず玲夜と玲夜の父親の顔を交互に見ておろおろする。
そんな柚子には構わず「レッツゴー!」と明るく言って、玲夜の父親は柚子を伴い大広間の中に足を踏み入れた。
中はきらびやかな明かりに照らされ、見目麗しい人々が歓談を楽していたり、お酒を飲んだりして楽しんでいた。
雪乃達によって綺麗に整えられた柚子だが、美しいあやかし達の中に入れば、場違い感が半端ない。
すぐに柚子があやかしでないことは、見ればすぐに分かるほどに、あやかしとでは見た目が月とすっぽんだった。
あまりの華やかさに目が潰れそうではあるが、間近で玲夜を見てきた分、美形への耐性は出来ていたようだ。
気後れはしたが、お腹に力を入れて足を動かした。