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 誤解も解けて大団円。
 ……と、言いたいところだったが、約一名そう言えない状況の者がいた。

 目の下にクマを作り疲れ切った悲壮な顔で現れた高道に柚子は心配になる。
 よほど仕事が忙しいのか?
 しかし、玲夜は柚子にべったりしていて、むしろ暇そうだ。

 高道に理由を問い掛けても、上手くはぐらかされる。
 それなら玲夜に聞くことにしたが、にこりと微笑み、頭を撫でるだけで教えてはくれない。

 頭を悩ませる柚子に答えを持ってきたのは、用事があってやって来た桜河だった。

 どうも、桜子の発言から、高道が柚子のことを陰で愚痴っていたことが玲夜に知られ、その罰を受けたらしい。

 何をされたのかと聞けば「世の中知らない方が良いこともある」と言って、達観した表情で去って行った。

 結局詳細は分からなかったが、どうやら高道は玲夜にお仕置きされたらしいことだけは分かった。

 柚子としては、高道にも良く思われていなかったことが少しショックだったが、私情は挟まない高道から直接嫌味を言われたわけでもないので、気にしないことにした。

 そんなことよりも気にしなければならないことが柚子にはあったからでもある。

 あやかし達が集まる酒宴。

 数日掛けて行われたその酒宴の最終日に、柚子も参加することが玲夜から伝えられたのだ。
 しかもその時に玲夜の両親と顔合わせをするらしいのだ。

 もし嫌われたら……。
 お前のような花嫁は認めん!
 などと言われてしまったらどうしようと、嫌な予想を次々にしてしまう。

 そんな柚子に、雪乃は気にする必要はないと言う。
 むしろ撫で繰り回され可愛がられるだろうと。

 しかし、普段の玲夜から、厳格な父親と礼儀に厳しい母親を想像していた柚子は縮み上がりそうな心待ちでその日を迎えた。


 当日、玲夜から贈られた綺麗な着物に、一時的に悩みも吹っ飛びテンションが上がる。

 雪乃を初めとした数人の使用人達により化粧をされ、髪も綺麗に結い上げられ髪飾りを挿される。
 鏡に映った自分を見れば、自分ではないような綺麗な出来栄えに嬉しくなった。


「玲夜、どう?」


 嬉しさのあまり興奮から頬を紅潮させて、玲夜の前でくるりと回ってみせると、玲夜はそれは優しい笑みを浮かべて柚子を引き寄せ頬に口付けを落とした。


「綺麗だ。誰にも見せないように閉じこめておきたいぐらいに」


 玲夜に思いを伝えてから、どこか二人の雰囲気は変わったような気がする。
 どこがというわけではないが、これまでより気持ち的な距離が近付いたように思える。

 玲夜から発せられる甘い言葉も、これまでは戸惑いが大きかったが、すんなりと心の中に入り込み受け入れることが出来るようになった。

 玲夜への好意を認めたことで、自然と信じられるようになった気がする。

 柚子の心境の変化を玲夜も感じたのか、今まで以上に柚子への接し方が密接になった。
 それはもう周囲が微笑ましいを通り越して、目のやり場に困るほどの溺愛っぷりだ。


 玲夜にエスコートされ車に乗って酒宴が行われている会場へ向かった。


 門に入ってから、深い木々に囲まれた長い道を車で行った先にあったのは古い洋館だった。
 どれだけの敷地があるのだろうか。そこは都会のど真ん中にありながら、辺りはとても静かで、まるで別世界に入り込んだような気持ちになった。


「ここが、酒宴の会場?」

「ああ。毎年ここで行われている。静かだろう?」

「うん、すごく。それに何だか空気が澄んでるみたいな気がする」

「ここは、各家の当主によって結界が張られている。外とは隔絶された空間になっているからそう思うんだろう。ここには招待された者しか入ることは出来ない。無断で入れば、ここまでに通った森の中で永遠に彷徨うことになる」


 何気に怖いことを言っているが、自分は招待されているようなので大丈夫だろうと思うも、念のため柚子は玲夜の袖を掴んだ。