「俺が高道と付き合っていると思っていたのか?」
まるで叱責されるように問い掛けられる。
「だって、桜子さんも花梨もそう言って……っ」
そう言っていたと告げる途中で、再びキスで塞がれる。
すぐに離れたが、玲夜は怒っているような表情をしていた。
いや、怒っているのだ。初対面の桜子や、散々柚子をないがしろにした花梨の言葉を信じたことを。
「俺は何度も言ったはずだ。お前を愛していると。俺なりに大事にしてもきた。それなのに、俺よりも桜子や妹の言葉を信じたのか?」
「……っ。だって、だって……」
柚子とて信じたくなかった。
けれど、皆が知っていると言われたら、弱い柚子の心はどうしたって揺れてしまう。
それに……。
「だって、さっきも高道さんとキス、してたじゃないっ」
「さっき?いつだ?」
「私が帰ってくる時。車の中見えてたもの。高道さんから顔を近付けてて、玲夜も受け入れてて……」
思い出すだけでも悲しくなる。
しかし、玲夜は深い溜息を吐いた。
「ちゃんと見たのか?」
「えっ?」
「ちゃんと俺と高道がしてるのを見たのか?柚子からじゃ高道が背を向けていたはずだ」
「でも、してるように見えた、から……」
そう言われてみれば、実際に唇同士がくっついている所は柚子の位置からは見えなかった。
そう見えた瞬間に頭が真っ白になって、したんだと思いこんで……。
柚子は何か多大な勘違いをしているような気がしてきた。
「あれは、俺のネクタイに付いた汚れを高道が取っていただけだ」
「えっ、えっ?」
混乱してきた柚子。
「だって、そう見えて……」
「お前の早とちりだ、柚子」
「……」
ぱくぱくと口を開いたり閉じたり、うまく言葉が出て来ない。
「……そ、それは勘違いだったとして、他にも証拠はあるのよ」
「証拠?見せてみろ」
柚子が鞄を探してきょろきょろすると、ちょうどタイミング良く子鬼達が鞄を運んできてくれた。
柚子はお礼を言って、鞄を漁り、桜子から渡された冊子を渡す。
仲良さげな二人の写真がびっしりと貼られたそれを見た玲夜は、ぽいっとゴミ箱に放り入れた。
「くだらない」
柚子をどん底まで悩ませた写真集は、たった一言で一蹴された。
「くだらないって」
「くだらないだろう。あれのどこが証拠になる。そう見えるように撮っただけだろう。もっと決定的な物をもってこい。まあ、そんな物はないがな。俺と高道は出会った時からただの主人と秘書の関係だ。それ以上でもそれ以下でもない」
きっぱりと断言した玲夜の言葉に、柚子の心は揺れる。
「本当に?」
「本当だ。俺は柚子には嘘をつかない。信用しろ、お前が惚れた男を」
途端、色気を出して、柚子の頬を撫でる玲夜に柚子は頬を紅くする。
勢いに任せ、告白するなんてとんでもないことをしてしまったと、今さら思い出した。
玲夜を見ると、口角を上げて不敵に笑っている。
「初めてだな。柚子から好きだと言われたのは」
「あ、あれは……その……」
恥ずかしい。
顔を背けたい。
けれど、玲夜の手が柚子の頬を捕らえているのでそれも出来ない。
「なんだ、嘘だったのか?」
分かっていて言っている。
意地の悪い笑み。
「嘘じゃない。玲夜が好き……だと思う」
「最後のは余計だ」
どこか呆れたような優しい笑み。
柚子の虚勢も玲夜には通用しない。
そっと抱き上げられ、膝の上に乗せられると、ぎゅっと抱き締められる。
数日ぶりの玲夜の温もり。
その温もりに安心感を抱くようになったのはいつからだったか。
「やっとその言葉を聞けたな。ずっと待っていた」
玲夜の美しい紅い瞳に囚われる。
「柚子の気持ちが追いつくまではと我慢していたが、これからは容赦しないから覚悟していろ。二度と俺の想いが嘘だと言えなくしてやる」
「お、お手柔らかにお願いします」
じゃないと、心臓がもちそうにない。
そう思う柚子の唇に、玲夜は優しいキスを落とした。