部屋を出ると高道が控えていた。
出てきた玲夜の後ろについて歩く。
「柚子に付けていた護衛はどうした?」
「すぐに別の者と交代させました。まあ、化かすのが得意な狐の十八番の幻惑の術を見破るのはさすがの鬼であっても難しいですからね。仕方がないと少し不憫に思いはしますが……」
いくら霊力が強い鬼といえども、やはりそれぞれに得手不得手がある。
「柚子に虫を近付けさせたんだ。何の罰も与えないわけにはいかない。今度こそちゃんとした護衛を付けたんだろうな?」
「はい。そこは徹底しました」
柚子に付けていた護衛達は、鬼に喧嘩を売る馬鹿はいないだろうという慢心もあったのだろう。
むざむざ裏を掻かれたばかりか、柚子の所まで辿り着かせてしまった。
子鬼が活躍したので幸い怪我はなかったが、もしも傷付いていたりでもしたら……。
玲夜の怒りは、その護衛達にも向けられていただろう。
まあ、今でも護衛達に怒りは感じているのだが、こんなものじゃすまない。
「柚子の様子はどうだ?」
「落ち着いていらっしゃる様子です。何を言われたかまでは分からないですが……」
チッと玲夜は舌打ちした。
子鬼には場所が分かるようにはしていたが、柚子にどういうことがあったかは実際に子鬼と会わなければ分からない。
念話の能力も付けておくべきだったと、玲夜は後悔した。
子鬼は柚子を守るためにと、戦闘力の方に霊力を注ぎ込んだので、力は強いが意思の疎通がおろそかになっている。
こんなことなら、柚子に盗聴器でも付けておくべきだった。
「高道。アクセサリーに似せた盗聴器を用意しろ。普段から柚子が身に付けられるように」
「……恐れながら。さすがに盗聴器など付けたら嫌がられると思いますよ。柚子様はお年頃の女性ですから」
玲夜は再び舌打ちをして、「さっきの話はなしだ」と苛立たしそうにする。
やはり実際に子鬼から情報をもらうしかないと考え直した。
何に対しても強気な玲夜も、柚子に嫌われるのだけは避けたかった。
「それから、柚子様のお祖父様、お祖母様を屋敷の離れに引っ越すようにというお話しですが……」
顔色を窺うような高道に玲夜は察した。
「断られたのか?」
「はい。お祖父様とお話ししたのですが、今の家は長年住んでいて愛着もあるから、と。また今回の様なことが起こる可能性があると説得したのですが、柚子様との思い出も深いこの場所を離れたくはないと断られてしまいました」
「そうか」
柚子との思い出の家。
そう言われてしまったら、柚子に甘い玲夜はそれ以上強く言うことは出来なかった。
「ならば、あの家に結界でも張るしかないな。外敵から守る結界を」
害意や敵意を持った相手は入ることが出来ないようにする結界だ。
最初からそうしていれば柚子を悲しませることもなかったのだが、準備や工程が大変な上時間が掛かるので、忙しい玲夜はすることを避けていた。護衛を置いていれば大丈夫だろうと。
その自分の考えの甘さに殴りたくなった。
「こちらで準備いたしましょうか?」
「いや、柚子の祖父母の家だ。今後も柚子が行くことも考えたら、俺が結界を張った方が安心出来る」
また人任せにして何かあるよりは、自分で満足のいく強力な結界を張る方が、万が一何かあってもすぐに気付くことが出来る。
「では、そのように」
「いったん屋敷に帰る。柚子にも帰ってくるように伝えてくれ」
「かしこまりました」