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 一年に一度開かれるあやかしの会合。

 それに出席していた玲夜は各一族の当主達との挨拶を終えて一息吐いていた。

 毎年数日を掛けて開かれるこの会合は、かく一族の当主を始めとしてあやかしの中で発言力のある者達が集う。
 初日は一族の当主全てが集い報告会のようなものが行われるが、それ以外の日はただの酒宴だ。

 それ故、初日と最終日以外は出席したりしなかったり、ずっと酒を飲み続けている者がいたりと様々。

 次期当主として、いずれあやかし達を取りまとめなければならない玲夜は、連日出席者達との話し合いの予定が入っていて、帰る暇はない。

 柚子に電話をしている暇もないほど忙しく、柚子を迎えてから半日と開かず離れたことのなかった玲夜は、まだ一日しか経っていないのにすでに苛立ち気味。

 それを見ていた高道はせめて電話をする時間ぐらいは確保しようとスケジュールと睨めっこしていると、電話が。

 相手からの話を聞くにしたがって眉間の皺が濃くなっているのに玲夜は気付いた。

 電話を終えた高道は溜息を吐いて眉間をもみほぐしてから玲夜に体を向けた。


「玲夜様、少々問題が……」

「何があった?」

「どうやら柚子様の元家族が柚子様の元へ突撃をかましたようです」


 途端に玲夜の眼差しが鋭くなる。


「護衛はどうした?」


 今柚子がいるはずの祖父母の家には護衛を置いてある。
 それは、柚子を引き取った後から、柚子の元両親から柚子に会わせろという電話が絶えず、さらには家にまで突撃してきたと、柚子の祖父から連絡があり、何かあってはいけないと配置していた。
 それからは、柚子の両親が来ても護衛達が追い返していたのだ。

 さらに今は柚子も泊まりに行っていることから、いつも以上の人数を護衛にあたらしていた。

 元家族と言えども、柚子のためにならない者達は近付くことすら出来ないはずなのだ。


「どうやら事が終わるまで護衛の誰も気付かなかったようです。恐らくですが、幻惑が使われたかと……」


 幻惑は妖狐が得意とする術。
 それにより両親と花梨の姿を消し、見つけられないようにしたのだと理解した。


「なるほど。せっかく警告で終わらせてやったというのに、この俺と敵対するということか……」


 玲夜の顔に酷薄な笑みが浮かぶ。


「妖狐の当主と面会の要請を」

「かしこまりました。ただちに」


 玲夜の命令にすぐに動きだそうとした高道だったが、ふと言い忘れていたことを思い出して立ち止まった。


「言い忘れておりましたが、桜子が柚子様と接触したようです」

「桜子が?何のためだ?」

「そこまでは。……年も近いですし、ただ挨拶しに言っただけではないでしょうか」

「そうか。まあ、いい。桜子なら問題は起こさないだろう」

「そうですね」


 まさか大問題を引き起こしているとは思っていない玲夜と高道は特に気にすることなく、次の瞬間には桜子の話は頭の隅に消えていった。