学校での子鬼フィーバーは継続中。
なんだかんだでサービス精神旺盛な子鬼達は、現在教卓の上で最近流行りのダンス動画を真似てダンスを披露。
何処からともなくパパラッチが集まり、教卓は子鬼のステージと化した。
さらには、手芸部部長が作ってきた服でのファッションショーまで開催され始め。
もう授業は始まっているのだが、教師までがパパラッチの一員となっているので、授業は当分始まらないだろう。
授業が始まるまでの間、柚子は透子と談笑することに。
「ねえ、柚子は若様の所で暮らしてしばらく経ったけど、若様とは仲良くやってるの?」
「うん。仲良くやってる……とは思う」
「その間は何なのよ」
「うー……だって、玲夜が私に甘すぎて、どう反応して良いか分からなくなる時があるんだもん」
今まで甘やかされて育っていない。誰かに頼ることをしてこなかった柚子には、玲夜の甘やかしは反応に困るようだ。
「そもそもさ、若様のことは好きになったの?」
「う……」
透子は痛いところを突いてきた。
「嫌いじゃない。好き……だと思う。でもそれは玲夜が求める好きなのかなって。玲夜があそこから助けてくれたから感じている好きで、それは好きの種類が違うんじゃないかって」
「でもさ、前に若様に婚約者がいるって知った時ショック受けてたじゃない。それは好きだってことじゃないの?何とも思わない人に婚約者がいたからってショック受けないでしょう」
「そう、なのかな?でも、まだ怖い……。玲夜は一生離さないって言ったけど、それが本当なのか。いつか、いらないって言われるんじゃないか。信じるのが、まだ怖いの……」
玲夜から向けられる好意はあからさまで、誰がどう見ても柚子を好きなのは明らかだ。
柚子だってそれは分かっている。
そんなストレートに愛情表現してくれる玲夜の態度が、くすぐったいように嬉しい。
それはもう、玲夜に囚われてしまっているからなのか。
もう、分かっている。分かっているのだ。
あんなにも、愛情を向けてくれ、優しく真綿で包むように大事にしてくれる人が毎日側にいて、好きになるなという方が無理だ。
それが、助けてくれた恩人に対してか、恋から感じるものなのか……。
けれど本当は気付いている。でも気付きたくないのだ。
認めてしまったらもう逃げられない。
あと一歩、踏み出す勇気がまだ柚子にはなかった。
「ほら、あやかしはさ、一目見れば花嫁って分かるみたいだけど、そんなの人間の私達には分かるわけないじゃない?」
「うん」
「私もね、町を歩いてたら突然腕を掴まれて、お前は俺の花嫁だ!なんて言われてさ。はぁ!?ってなったわけなのよ。新しい勧誘かきちがいに捕まったと思ったわよ」
「おい」
きちがい呼ばわりされた東吉が横からツッコミを入れたが、透子は無視。
「それからすぐに家調べられて、一緒に来いなんて言われたけど、速攻断ったわよ。だって初対面の人にそんなこと言われたら、嬉しいより恐怖抱くわよ、仕方ないじゃない。人間の私達にはさ、花嫁かなんて分からないもの」
「うん」
玲夜に花嫁と言われて戸惑った時のことを思い出して、柚子もこくりと頷く。
「そう言ったら、にゃん吉のやつ、それならこれから好きにならせてやるって宣言して毎日私に会いに来るようになって。ストーカーかって、もう恐怖よ恐怖」
今でこそカラカラと笑っているが、確かにストーカーで警察を呼ばれてもおかしくない行動だ。
「最初は逃げ回ってたんだけど、段々話すようになって、なんか気が合うなって感じるようになって。けど、今の柚子ほどじゃないけど、にゃん吉のこと信用できてなかったのよね」
「そうなの?」
「そうそう」
仲の良い今の二人を見ていると、そんな時期があったのが信じられない。
今の二人はお互いに信頼し合っているのが分かるから。
自分も玲夜とそんな関係を築けるだろうか。柚子は想像しようとしたけれど、今の柚子には出来なかった。
「そこからどうやって今の二人みたいになったの?」
透子から東吉との馴れ初めを聞くのが初めてだった柚子は、興味津々。
これまでは、花嫁を妹に持っている柚子のことを気遣って、透子からは花嫁になったとしか聞いていなかったから。
「毎日来てたにゃん吉が急に来なくなったのよ。そしたら何だかモヤモヤしてきちゃって。町に出たら、なんと可愛い女の子と腕組んで浮気してたのよ」
「いや、浮気じゃねえから。母親だから」
「そんなのその時の私は知らないわよ。童顔の母親がいるなんて。にゃん吉が取られるって思ったらすっごく悲しくなって。ああ、私こんなににゃん吉のこと好きなんだなって理解したわけよ」
「そんで、そのまま乗り込んで来てぶん殴られたけどな」
「私の愛の重さよ。受け入れなさい」
そこで、乗り込むあたりが透子らしい。
普通は浮気されたと、泣き帰りそうなものだが、透子は怒りに変わったよう。
「理屈じゃないのよ、人を好きになるって。柚子も今は悩んでてても、そんなの吹っ飛ぶぐらいこの人が好きだ、渡したくないって思う時が来るわよ」
「そうなのかなぁ……」
「そうそう。……まあ、それが若様とは限らないけど」
ぼそっと呟いた最後の言葉に東吉が反応する。
「おっ前、怖いこと言うなよ。そんなことになったら、こいつ監禁されんぞ。そして、相手は八つ裂きだ。いや、それで済めば良いけど」
「はははっ、冗談よ冗談よ。けどマジになったらヤバいわね」
残念ながら、柚子が玲夜を好きになろうがなるまいが、玲夜から離れられないのは変わらないのだ。
出来ることなら透子と東吉のように相思相愛になれることを願うばかりだ。