その後帰ってから改めて話し合った結果、柚子の学費は玲夜が出す。
その代わり学校が終わった後は玲夜の所でバイトをするということで決まった。
玲夜の最大限の譲歩だ。
おかげで翌日から今まで通りに登校出来ることになったが、普通にとはいかなかった。
登下校時は車での送り迎えが必須とされた。
東吉から花嫁の話を聞いた後では嫌だとも言えず、了承するしかなかった。
帰った後も、玲夜から花嫁であることの危険性を注意されたのでなおのこと。
まあ、今まで通り学校に通えるだけ恵まれているので、毎日満員電車に乗らずにすんでサイコーぐらいに良い方に考えることにした。
二日ぶりの教室は、当たり前だが何も変わってはおらず、けれど何だかいつもの教室が酷く懐かしいと感じてしまう。
この二日で、柚子だけが大きく変わってしまった。
「あっ、柚子だ」
「柚子、昨日どうしたの?」
友人達から声を掛けられ、いつもと変わらぬ風景に何の感情か分からない涙が込み上げてきたが、それを笑顔で押し止める。
「ちょっと家の事情でね」
「なんだ、そっか」
友人達ととりとめのない会話で盛り上がっていると、東吉を従えた透子が入ってきた。
「柚子おはよう」
「おはよう、透子、にゃん吉君」
「おう」
二人が柚子の所へ来ると、それまで話していた友人達は自然と解散する。
普通、あやかしやその花嫁はかくりよ学園に通っている者がほとんどで、こんな特に目立ったもののない公立の学校に通っている者は滅多にいない。
ただでさえ花嫁は少なく、あやかしとその花嫁が在籍したのはこの学校始まって以来らしい。
それ故か、二人はクラスメイトから一線を置かれている。
けれど、それは悪い意味というよりかは、良い意味でがほとんどだ。
見目の整ったあやかしの東吉と、そんな東吉に溺愛されている花嫁の透子は、憧れと羨望の的。
恐れ多くて気軽に話し掛けられないといった感じなのだ。
特にあやかしである東吉はそこらのアイドルより顔が良いので、女子達からきゃあきゃあ言われていたりする。
密かにファンクラブなるものがあるというが、東吉は透子以外に興味がないので放置しているようだ。
「学校に来られたってことは話し合いはうまくいったの?」
「うん。玲夜の所でバイトすることになったの。さすがに今までみたいにカフェでバイトってわけにはいかなかったけど」
「まあ、それは仕方ないわよね。花嫁になった以上は」
「そうみたい。本当は自分の力でなんとかしたかったけど、玲夜に頼りたくないって言ったら怒られた」
あの時は身がすくむような威圧感で、出来るだけ玲夜を怒らせることはしないようにしようと柚子は思ったのだった。
「そもそも、バイト辞めるように言ってたのが玲夜だったみたい」
その件に関しては色々と申したいことだらけだったが、何が悪いと言いたげな悪気を一切感じていない玲夜には何を言っても無駄だろうと諦めた。
全て、花嫁だからで片付けられそうである。
「あらら。あやかしの独占欲は重いから、仕方ないって諦めるしかないわよ」
先輩花嫁の透子は東吉にじとっとした視線を向けて助言した。
見られてる東吉はそっぽを向いて知らないふり。
「まあ、玲夜の所ででもバイトがさせてもらえるだけありがたいって思っとく」
「多分それ違うわよ。ただ仕事中も柚子を側に置いておきたいから都合の良い理由にしてるだけだと思う」
「まさか」
「そのまさかをするのが、花嫁を持ったあやかしよ」
柚子と透子、二人の視線を向けられた東吉は、「否定はしない」と肯定ととれる返事をした。