大和に突然別れを告げられたこと、その理由が花梨に一目惚れしたからだということ話し終えると、透子はおもむろに立ち上がると。
「ちょっとあいつら、やってくる」
やってくるが、殺ってくる。に聞こえるのは気のせいだと思いたい。
しかもその中には大和だけではなく、花梨も含まれているように感じる。
柚子は慌てて友人を止めた。
「駄目だって!」
「止めるな、柚子!」
「透子のは洒落になってないのよ」
「当たり前だ。洒落にするつもりはない!」
「もっとまずいから!」
ええい、離せと、暴れる透子を止めようと奮闘するが、怒髪天を突いた透子を止めるのは至難の業だ。
柚子は先程から教室の入り口でこちらの様子を窺っている人物へ助けを求める。
「にゃん吉君、早く透子を止めてよ!」
「へいへい」
やれやれと仕方なさそうに、教室へと入ってきたにゃん吉こと、猫田東吉。
透子の彼氏だ。
「ほら、透子、どうどう」
落ち着けと、透子をなだめる。
「これが落ち着いていられるか!」
「お前が暴れたって、柚子が困るだけだぞ。お前は困らせたいわけじゃないだろ?」
そう言われてから、柚子の顔を見て、多少は冷静さを取り戻してくれたらしい。
さすが彼女の扱いを分かっている。
「あー、むかつく!」
暴れるのを止めたものの、まだ怒りは収まっていないようで、行き場のない怒りにイライラする透子。
トントン机を叩く指先が、透子の苛立ちを表している。
怒る透子には悪いが、自分のことのように怒ってくれる友人の存在は、落ち込んでいた柚子の心を温かくさせてくれた。
「にしても、二人はうまくいってると思ったのに。昨日だって普通だったじゃない! しかもよりによって、あの女に一目惚れだあ!? 何考えてんのよ、あいつ」
「ほんとにねぇ」
「なんで、柚子はそんなに落ち着いてるのよ!」
目の前で怒り狂っている人がいたら、逆に冷静になるというものだ。
それに。
「なんか、まだ実感なくて。それにどちらかというと、大和に別れたってことより、その理由が花梨ってことの方がショックが大きいのかも」
同じ親から産まれた姉妹だというのに、いつだって柚子よりも優先されてきた花梨。
だからこそ大和も柚子より花梨を選ぶのかという失望は大きい。