「一応相談してみたら?」
「そうだね、そうしてみる」
もしかしたらバイトを許してくれるかもしれないし、と柚子は楽観的に考えることにした。
「あいー!」
子鬼がぴくりと何かに反応したと思ったら、二人して扉の方へ猛ダッシュする。
そしてその扉の前で何か訴えながらぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「どうしたの?」
「部屋から出たいのかしら?」
そう思って扉を開けてあげようとしたら、先に扉が開き東吉が姿を見せた。
その顔色は悪く、何かに怯えているようにも見える。
「あいあーい」
「あいあい!」
子鬼達の声に導かれて視線を向けると、子鬼が東吉の後ろにいた人物の足にコアラのようにしがみ付いている。
その顔は嬉しそうで。
柚子は下に向けていた視線を上に上げその人物の顔を確認すると目を丸くした。
「玲夜?」
何故ここにと思っていると、その美しい顔に笑みを浮かべ。
「迎えに来た」
優しさの中に甘さを含んだ玲夜の囁きに柚子は頬を染めた。
その甘さが自分に向けてのものだと分かって。
「早くない?だってさっきにゃん吉君が連絡しに行った所なのに」
「これがいるからな」
これと指したのは、二人の子鬼。
「これは俺の霊力の塊だ。移動すればそれがどこにいるか俺には分かる」
「……GPS機能付き」
ちょっと違うが、ようはそういうことだろう。
いつの間にか首輪を付けられていたようだ。
「あの、ごめんなさい。勝手に飛び出してきちゃって」
「問題ない。そのためにこれを作ったんだからな」
「あい!」
「あい!」
子鬼達が元気良く手を上げる。
「こいつらは柚子の護衛も兼ねてる。小さいがそこらのあやかしよりは強い」
「あいー」
子鬼達はどこかドヤ顔だ。
「そうなんだ。でも屋敷の人達は私が出て行っちゃったから大騒ぎだろうってにゃん吉君が」
東吉に視線を向けると、話をこっちにふるなと言うように首をブンブン横に振っている。
よく分からない柚子は首を傾げる。
「確かに屋敷の者から慌てた様子で電話が掛かってきたな」
「やっぱり……」
東吉の言ったように大騒ぎになっていたことを知り柚子は申し訳なくなる。
そんな柚子を頭を慰めるように撫でる玲夜。
「お前がそんなことを気にする必要はない。」
それならバイトも許可してくれるかもしれないと思っていると、服の裾を引っ張られたので後ろを見ると頬を染めた透子が期待に満ちた眼差しで見ていた。
「透子?」
「紹介してよ」
声を潜めながらそう言われる。
「う、うん。……あの、玲夜、この子透子って言って私の友達。で、そっちにいるにゃん吉君の花嫁ね」
「透子ですぅ。はじめまして」
東吉の前では絶対に出さないような猫撫で声で玲夜に挨拶をする透子は完璧に乙女になっている。
「そうか。これからも柚子と仲良くしてやってくれ」
「はい!」
玲夜は柚子に対するのとは違って冷たい。
しかし、秘書の高道が見ていたら最大限の愛想を振りまいていたと言うだろう。
それぐらい普段の玲夜は愛想がない。
玲夜が優しいのは柚子にだけなのだ。
それを分かっている東吉は戦々恐々。
透子を玲夜から引き離した。
「何するのよ、にゃん吉」
「鬼龍院様に失礼なことするなよ!」
「挨拶しただけじゃない」
「それが失礼になるかもしれないだろう。というか、何だその顔、その声。俺の前でもそんな顔しないくせに。もっと俺の前でも女らしく頬染めて媚びてみやがれ」
「今更にゃん吉に媚びるわけないでしょう。こんな美形次いつお目にかかれるか分かんないんだから良いじゃない」
透子は再び玲夜をじっと見つめてポツリと。
「ああ、イケメン。神が生み出したもうた美の塊だわ」
ほうと溜息が出るほど見惚れている透子に東吉は気に食わないようだが、相手が相手なため、文句も言えず葛藤している。
このままでは東吉が不憫なので、柚子はさっさとおいとますることにした。
「玲夜も迎えに来てくれたし、私そろそろ帰るね」
「もう帰るの?」
「じゃないと、にゃん吉君が焼きもち焼き過ぎて不憫だからね」
「にゃん吉なんか放っておけばいいのに」
「透子も程々にね」
「ちゃんと見極めてるから大丈夫よ」
意地悪く口角を上げる透子。
何だかんだで仲の良い二人に柚子は苦笑する。
東吉の反応を見て楽しむのは透子の悪い癖だ。
「じゃあね」
「また遊びに来てよ」
「おーまたな」
二人に挨拶をして、柚子は玲夜を伴って猫田家を後にした。