バイト先であるカフェに到着した柚子は、時計を見てギリギリセーフと安堵する。
 何とか時間に間に合った。

 しかし、そこで柚子は店長から驚愕の話を聞かせられる。


「えっ?もう一度お願いします」

「だからさ、君辞めたことになってるけど?」

「どういうことですか!?」

「それはこっちが聞きたいよ。今日突然君の保護者から連絡があって、バイトは辞めさせるって言われたんだよ。困るんだよね、シフトも組んであるのにさ」

「そんなはず……」


 そんなはずないとは言い切れなかった。

 あの両親が何かの嫌がらせかでそんなことを言い出したのかも。柚子はそう思った。


「多分何かの手違いだと思います。だから働かせて下さい」

「もう別の子にシフト入ってもらったんだよね。それに、君未成年でしょう。雇うには保護者の同意がいるんだけど、その保護者が辞めさせるって言うならこっちとしては雇えないよ」


 ド正論を言われて柚子はあたふたする。

 これまでの保護者は両親だ。
 けれど、養子縁組したから、これからの保護者は祖父母になるのか。
 ならば、祖父母の同意が必要になる。


「すぐ、保護者の同意書持ってきます。そしたら雇ってもらえますか!?」


 しかし、どうも店長の反応は良くない。


「うーん、今まで真面目にやってくれてたし雇ってあげたいけど、君が辞めるっていうんで求人の張り紙出したら直ぐに働きたいって子が見つかってね。もう雇うことになったから悪いんだけど」

「そんな……」


 ここは仕事内容のわりに時給が良いバイトだった。学校からも近くて通いやすかった。
 条件も良く、なにより制服がめちゃくちゃ可愛いことで柚子の学校の生徒にも働きたいと人気の店だった。なので直ぐに働きたいという人が見つかるのも頷ける。
 頷けるだけに、ここを辞めなくてはならないのはかなり痛い。


 しばらく粘ったがどうにもならず、肩を落としてその場を後にした。


 あてもなく、うろうろ歩き回る。


「どうしよう……」


 職を失ってしまった。
 また探せば良いのだろうが、これまでのバイトほど条件と時給の良い所は中々ない。

 スマホで検索してみたが、良いのは見つからない。
 とうとう頭を抱えだした柚子は、それ以上の問題があることに気付く。


 そもそも学校には通い続けられるのかということだ。


 これまで学費は両親が払っていた。
 ノートや筆記用具など、必要な物は柚子が自分で働いたバイト代から出していたが、学費は両親だ。

 けれど、両親と縁を切った以上両親は頼れない。
 かといって、年金暮らしの祖父母にも頼れない。

 学校に通いながら学費を稼げるのか。

 バイトもクビになってしまったし、もしかしたら学校は辞めなければならないかもしれない。


「どうしよう……」


 次から次へと問題が起きて、柚子はもう半泣きだ。

 そんな時にタイミング良く電話が鳴る。
 見ると透子からだった。
 直ぐに電話に出た柚子からは情けない声が出る。


「透子~」

「何、どうしたのよ。っていうか、今日なんで休んだの?風邪?でも昨日までピンピンしてたじゃない」

「私も何が何だか。急に花嫁とか言われるし、玲夜は綺麗だし、子鬼は可愛いし、お祖父ちゃん達の子供になっちゃうし、学校は辞めなきゃいけないかもだし」

「ちょちょ、ちょい待ち!」


 息も吐かせぬ柚子の弾丸トークに、透子の制止が入る。


「いや、全っ然言ってる意味分かんないわよ」

「話せば長いのよ」

「柚子今どこにいるの?」

「バイト先近くの公園。でもそのお店も首になっちゃうし、もう泣きそう、っいうか泣く」

「分かった分かった。そこからなら私の家も近いでしょう。こっち来て説明して。ちゃんと話聞いてあげるから」

「直ぐ行きます!」


 柚子は電話を切って目的地に向かった。