リビングへ行くと、所々服が焼け焦げた瑶太を囲む花梨と母親。
父親も玲夜を警戒しながら、瑶太の様子を見ている。
当の玲夜はどこ吹く風。
もう父親など眼中にないという様子で、祖父と高道と何やら話をしている。
柚子が入ってくると、その手の鞄に視線を移す。
「それだけか?」
「うん。……ねえ、あの人は大丈夫なの?」
全身を火で包まれていた瑶太は、床に転がって身動き一つしない。
柚子の手を焼いた人だ。
ざまあみろと思わなくもないが、少しやり過ぎな気もしなくもない。
というか、生きているのか心配になる。
「問題ない。少し霊力をぶつけたから気絶してるだけだ。
火傷もあの程度、狐ほどのあやかしならすぐに回復する。
俺の柚子に怪我をさせたから、ちょっとした仕置きだ」
お仕置きなんて可愛らしいものですんでいるように見えないのだが、人間とあやかしはやはり体の作りが違う生き物なのだろう。
「準備が出来たなら行くぞ」
柚子から鞄を奪うと、肩を引き寄せて歩き出す。
しかし、柚子は玲夜の手から離れ振り返る。
「これまで育ててくれたことには感謝してます。お世話になりました」
三対の目が憎々しげに柚子に突き刺さる。
しかし、柚子はそんな眼差しには負けず、一度だけ深く頭を下げると、玲夜と共に長年暮らした生家を後にした。
鬼龍院家へ行く前に、祖父母を家まで送った。
柚子が荷造りをしていた間に、祖父と玲夜の間で柚子について話がされていたようだ。
祖父母の養子となったが、これから柚子は鬼龍院の家で生活する。
柚子の身の回りのことは全て玲夜が用意する。
けれど、祖父母との付き合いについて玲夜が強制するようなことは何もなく、会いたい時に会えば良いという事だ。
「柚子、鬼龍院さんと仲良くね」
「またいつでも遊びにおいで」
「うん、またね」
祖父母と一時の別れをし、柚子は玲夜と共に鬼龍院の家へ。
厳かな門構えが柚子を迎え入れる。
一日で大きく変わってしまった柚子の生活。
期待と不安で心が落ち着かない。
そんな柚子に玲夜が優しい笑顔で手を差し出す。
「ようこそ柚子。俺の花嫁」
「これから、よろしくお願いします!」
「あい」
「あいあい」
子鬼達も柚子を歓迎するように、ぴょんぴょん跳びはねた。
玲夜に手を引かれ、柚子は門をくぐった。