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 帰ってきた柚子の家。
 帰ってきてしまったと言う方が正しいかもしれない。

 出来れば帰ってきたくはなかった。

 両親は怒っているだろうか。
 それとも無関心な反応が返ってくるだろうか。
 予想が出来なくて不安だらけ。

 けれど……。

 隣に立つ玲夜を見上げる。
 ぽんぽんと、頭を撫でられる。それだけで元気づけられた気がした。

 一緒に着いてきた子鬼の二人も、柚子の肩の上に乗って、玲夜を真似するようによしよしと撫でてくれる。

 一人ではないという事実は、柚子に勇気を与えてくれた。


 一度深く深呼吸をして、玄関の扉を開けて入っていく。

 その後を玲夜、そして、先程紹介された玲夜の秘書をしている高道が付いてくる。
 高道は弁護士資格も持っているらしく、この短い時間でどうやったのか、養子縁組に必要な書類を全て用意してしまった。
 後は両親と祖父母のサインだけ。

 そこはさすが鬼龍院というところか。


 リビングに近付くと、何やら言い争う声が聞こえてくる。
 玄関に靴があったから、きっと祖父母だろうと思ったが、リビングに入れば案の定、両親と祖父母が言い争っていた。


「お前達はそれでも柚子の親なのか!?」

「親父達には関係ないだろう」

「関係ないわけがあるか!柚子は俺の孫でもあるんだぞ!」

「あの子は花梨に手を上げたんですよ」

「それだけのことを花梨がしたんでしょう。それなのに柚子の話も聞かないで、あの子だけを悪者にして!」


 どこまでも花梨を優先する両親と、柚子の事も考えてくれている祖父母。
 その意見が噛み合うことはない。



 そこには両親と祖父母だけでなく、花梨と瑶太もいたが、花梨は不機嫌そうにし、瑶太は敵意に似た眼差しを祖父母に向けている。

 どうやら柚子を庇う祖父母が気に食わないようだ。


 すると、ようやく花梨が柚子の存在に気付いて「お姉ちゃん」と声を出した事で、他の者も柚子に気付いたようだ。


「ああ、柚子。怖かったわね。無事で良かった」


 そう言って抱き締めてくれるのは、母ではなく祖母。
 良かったと安堵の表情を見せるのは、父ではなく祖父。

 この時に、柚子の気持ちは固まった。

 もうとっくの昔に、両親は両親ではなくなっていたのだ。


「お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも心配掛けてごめんね」


 祖母が口を開こうとしたが、声を発する前に、先に花梨が言葉を発した。


「全くお姉ちゃんのせいで、いっつもお父さん達とお祖父ちゃん達って喧嘩ばっかり。いい加減にしてよね。当てつけみたいに家出するなんて、かまってちゃんなの?心配してほしいからって面倒掛けるの止めてよね」

「花梨!」


 祖父が怒鳴りつけるが、花梨が意見を変えることはない。
 それどころか、隣にいた瑶太が柚子に近付いてきて威圧する。


「花梨に手を上げたばかりか、花梨やその家族に迷惑掛けるなんて何様のつもりだ」


 その言いようにムカッときて言い返そうとしたが、それは続いてリビングに入ってきた玲夜によって先を越された。



「お前こそ俺の花嫁に対して何様のつもりだ」