落ち着いたところで、隣同士で座ると、玲夜が切り出した。
「柚子はこれからどうしたい?」
「どういうこと?」
「申し訳ないが、昨日の内に柚子のことを調べさせた」
そう言われたが、特に驚きはなかった。
鬼龍院であるなら、柚子一人のことを調べるなど容易いことだろう。
「昨日の柚子から聞いた話でも、あまり家族とうまくいっていないのだろう?」
「うん」
「柚子が望むのなら、あの家から出してやろう」
「えっ」
「嫌なのか?」
「嫌というか……」
確かにいずれは出るつもりでいた。
高校を卒業したら、大学は家から離れたところを選び一人暮らししようと。
別に大学に通うのが金銭的に難しかった就職しても良い。
とりあえずあの家から解放されたかった。
その日をずっと心待ちにしていたのは事実だ。
けれど、今と言われると戸惑いの方が大きい。
「あの家にいても、柚子に良い影響を与えるとは思えない」
「確かに、もうあの家には居づらいし、帰りづらいけど、あの家を出てどうやって生活していけば良いか分からない。
まだ未成年で、親と縁を切り離せないし」
「ならば、祖父母と養子縁組するのはどうだ?」
「えっ、養子縁組?」
思ってもみない提案に目を丸くする。
「昨日の内に柚子の祖父母とは連絡を取った。柚子が怪我をさせられたことや経緯を話したら激怒していたようでな、この事を提案してみたらとても乗り気だった。むしろあの親から離せるなら賛成だと言っていた」
きっと心配させてしまっただろうなと、柚子は申し訳なくなった。
「どうする、柚子?」
「急に言われても混乱して。それに、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも年金暮らしで、一緒に暮らすには二人の負担になるだろうし」
週末だけ泊まりに行くのとは訳が違う。
あの家から出られるのなら大歓迎だが、祖父母の負担にはなりたくない。
まだ学生の柚子には、バイトを頑張ったとしても限度がある。
現実的な問題として、その選択を簡単には受け入れられない。
「祖父母の負担を考えてるのなら気にしなくて良い。
祖父母と養子縁組をするだけで、柚子はここで暮らすんだから。
金銭的な不自由をさせるつもりはない」
「はっ!?いやいや、他人の玲夜にそこまでしてもらうわけにはいかないから」
すると、玲夜は眉をしかめ眼差しを鋭くさせた。
その迫力に柚子はたじろぐ。
どうも、玲夜の機嫌を損ねてしまったようだ。
「他人だと?言ったはずだ。お前は俺の花嫁。花嫁が苦しんでいて放置などできるはずがないだろう」
「でも……」
「でもじゃない。もういい。柚子が決心できないならこちらで話を進めておく」
「えっ、玲夜!」
とっさに玲夜の腕を掴むと、その手の上から手を握られる。
「あやかしにとって花嫁は唯一無二の絶対の存在だ。悲しむ姿など見ていられない。今は黙って俺に頼れ。決して悪いようにはしない。それとも、俺が嫌か?」
「……その言い方はずるいと思う」
すでに玲夜にほだされかけている柚子が、寂しそうに問うてくる玲夜の顔を見て、流されないわけがない。
「なら、決まりだ。柚子の家に行くぞ。話を付けに行く」
「えっ、もう?」
即断即決。強引すぎる玲夜に、柚子は付いていくのがやっとだ。
けれど、嫌な気はしない。
これまで変えたくても変えられなかった自分を、玲夜が塗り替えていってくれるのが分かるから。