あやかしの花嫁。
それはあやかし同士でしか番わないあやかしが、人から選んだ伴侶。
けれど、それは誰でも良いわけではない。
玲夜を取り囲んでいた女性のように、気に入られさえすれば花嫁に選ばれると勘違いしている者は多いが、それは全く違う。
あやかしにとって花嫁は、ただの伴侶ではない特別な存在なのだ。
花嫁を手にしたあやかしは、霊力を高めることが出来る。
さらに、花嫁との間に産まれた子供は、産まれながらに強い霊力を持つという。
一族の繁栄を願う一族にとっては、花嫁は喉から手が出るほど欲しい存在。
なので、花嫁は一族の宝として、それは大事に大事に扱われるのだ。
それだけでなく、花嫁は選んだあやかし自身にとってもなくてはならない存在となる。
まるで心を囚われたように愛おしく感じられるのだという。
一度花嫁を見そめると、生涯花嫁だけに愛を捧げる。
その愛し方はとても深く。見目麗しい者に真綿で包むように大事に愛される姿は女性の憧れとなり、花嫁になることを夢見る女性は後を絶たないのだ。
そんな花嫁がいかにして、あやかしに選ばれるのか。それはあやかし本人にも分からない。
ある者は、とても甘美な香りがしたと言い。
ある者は、心臓が激しく鼓動したと言い。
またある者は、霊力が吸い寄せられるような感覚がしたと言う。
皆感じ方は違うが、全ての者が、一目で花嫁だと分かったと、そう言った。
言葉で言い表すことはとても難しいが、会えば分かる。
花嫁を得た者達は皆一様にそう口を揃えた。
戦後、地位も金も名誉も手にしたあやかし達が望んだのは花嫁だった。
それほどまでに、愛おしく感じられる相手が出来ることを羨ましく。
しかしながら、全てのあやかしが花嫁を手にできるわけではない。
早くに見つける者もいるが、死ぬまで出会うことのない者の方が圧倒的に多いのだ。
簡単に手にできるわけではないからこそ、余計に手に入れたくなる。
けれど、花嫁と出会うのは運に頼るしかない。
ほとんどが諦め、家に相応しい霊力を持った、あるいは好意的に感じたあやかしを伴侶にする。
玲夜の両親も、一族の話し合いで決められた政略結婚だ。
けれど、夫婦仲は良く、息子の目から見ても政略結婚とは思えないほどだ。
そんな両親を見てきたから、政略結婚に嫌悪感はない。
玲夜にも既に決められた婚約者がいるが、それなりにうまくやっていけるだろうと思っている。
だが、やはり花嫁に興味がないと言ったら嘘になってしまう。
あまり物事に興味を持つことの少ない玲夜。それは物だけでなく、人もあやかしも含まれる。
花嫁を持つ者を見て、自分もあれほどに執着出来る存在が見つけられたら。
そうしたら、いつもどこかに感じている空虚な何かが埋められるのではないか。
そんな淡い希望を抱いていた。



