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「ごめん。別れて欲しいんだ」


 柚子は一瞬何を言われているのか分からなかった。

 申し訳なさそうに目の前に立つ柚子の彼氏、斉藤大和。
 まだ付き合って三ヶ月の彼から発せられた言葉に耳を疑う。

 きっと聞き違い。
 しかし……。


「好きな人が出来たんだ」


 目の前の大和は、聞き違いという淡い希望を打ち砕く。


「どうして……。まだ付き合って三ヶ月なのよ?」

「ごめん」


 告白してきたのは大和の方だ。
 それなのに、もう次の人を見つけたというのか。
 では自分に好きだと告白してきたあの言葉は何だったのか。
 柚子は大和の言葉を直ぐには受け止めきれなかった。


「……好きな人って誰?」


 それを聞いてどうするというのか。
 けれど、そんな言葉しか出てこなかった。

 大和は気まずそうにただ一言。


「……花梨ちゃん」


 それは柚子の想定する中で最も聞きたくなかった名前。
 何よりも柚子を傷付ける答えだった。


「……か、りん?……どうしてあの子が出てくるの?」

「前に柚子の家に行った時に会って、それで、一目惚れして……」


 確かに大和を家に呼んだことがある。
 初めて連れていった彼氏。

 本当はあの家には連れていきたくなかったが、大和が柚子の家に行ってみたいとどうしても言うから連れていった。


 その時に家にいた花梨と大和は会っていた。
 けれど、互いに顔を合わせて自己紹介をしたぐらいだ。

 そんな僅かな時間だけで、大和は花梨に恋をしたと言うのか。
 よりにもよって、柚子の妹の花梨に……。


「なんで花梨なの……?それにあの子は花嫁なのよ?あの子を好きになったって……」


 大和と結ばれることはないのに。
 そう続けようとした言葉は鋭い大和の声に遮られた。


「分かってるよ!けど仕方ないだろう、好きになったものは!!」


 何故大和が怒るのか。
 怒鳴りたいのは柚子の方だというのに。


「とりあえずそういうことだから」


 それだけを言い残して大和は去って行った。

 その背中に追いすがることも出来ず、柚子は大和の背中を呆然としながら見送るしかなかった。