鬼の花嫁~運命の出逢い~

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 鬼龍院。

 言わずと知れた、鬼の一族の中で……いや、全てのあやかしの中で最も力のある家だ。

 その鬼龍院の名を持つ玲夜は、鬼龍院の次期当主として望まれている。

 美形の多いあやかしから見ても美しいその容姿と、氷のように冷たい眼差し。
 その表情が動くことは滅多になく、まるで人形のように感じられるも、それがまた玲夜の魅力を大きくさせていた。


 無表情、無感情の冷酷な次期当主。

 そう言われながらも、彼から発せられる人もあやかしも魅了するそのカリスマ性に、誰もが自然と頭を垂れる。


 玲夜はこの日、人とあやかしが出席する親睦パーティーに出席していた。

 しかし、親睦会とは名ばかりの、権力者へにこびを売るための集まりだ。

 このパーティーの中で最も権力を持った玲夜の所には、次から次へと人が寄ってくる。

 全員が、玲夜という一人の男ではなく、鬼龍院次期当主という者のおこぼれに預かろうとする者ばかり。

 政財界、経済界の大物が、玲夜のような若造にこびを売る様は滑稽とすら思う。

 それ故、こういったパーティーは出来るだけ出席したくない玲夜だが、人とあやかしの仲を深めるという謳い文句となると、あやかしを取りまとめる役目も負う鬼龍院の次期当主として、出席しないわけにもいかない。


 ある程度の挨拶を済ませると、次に群がってきたのは若い女性達。

 玲夜の目に止まろうとする者は人やあやかしといった種族の違いはない。

 違うのは人は玲夜の持つ権力に、あやかしは玲夜の持つその強い霊力に惹かれ、気を惹こうと必死だ。

 いつもと変わらぬ周囲の態度に玲夜はうんざりとする。


 けれど、あやかしの女性達の方がまだましだと思えるのは、己の分をわきまえているからだろう。


 あやかしは基本霊力の釣り合ったあやかしを伴侶に選ぶ。

 鬼の次期当主ともなれば、伴侶に選ばれるのは同じ鬼の一族で最も霊力の強い女性だ。

 全てはより強い跡継ぎを作るため。
 
 それは一族の本家や分家の家長達の話し合いで決められる政略結婚。

 玲夜が強く反対すればある程度の希望は聞き届けられるだろうが、次期当主として育てられて生きてきた玲夜は、よほど相手に問題がない限りその決定に従う意思だ。

 それは別に鬼の一族に限ったことではなく、多くのあやかしの一族ではそういうものである。

 だからそれを理解している玲夜あやかしの女性は、体の交わりによって得られる玲夜の強い霊力のおこぼれを求め、一夜限りの関係を願っているのだ。

 それ故、多くは求めない。あわよくばであるために、そこまで押しも強くない。

 けれど、人の女性は違う。


 あやかしでは分かりきったルールや決まり事を知らぬ人の女性は一夜の女では足りない。それ以上の地位、玲夜の伴侶に。
 それを虎視眈々と狙っているので、押しも強く、その目は強い欲にまみれている。

 その目が余計に玲夜を冷めさせているのだが、そんな玲夜の冷ややかな目も、目の前にご褒美を吊された人の女性達には通じない。


 玲夜に見初められようとする女性同士の足の引っ張り合いは激しく、そんな様をあやかしの女性達が嘲笑していることにすら気付いていない。

 あやかし達ではごく当然の決まり。

 あやかしはあやかしとしか番わない。

 例外は只一人、花嫁だけ。