愛されたいと思った。
花梨のように。
孤独を拭いきれないあの家で何度も願った。花嫁のように誰か自分を愛してくれないかと。
けれど、そんな都合のいいことなんてあるはずがないと諦めていた。大和のことでさらにそう思うことになった。
けれど……。
「あなたは、私を愛してくれる?」
それは柚子の切なる思いだった。
「ああ。お前を、お前一人を愛そう。俺の花嫁」
ぽろりと涙が一滴落ちた。
一人は悲しい。いないものとされるのは辛い。
存在を肯定して欲しい。
この目の前の人は自分を必要としている。
彼はあやかしだ。あやかしは花嫁を裏切ることはない。
そう思ったら、自然と涙が溢れてきた。
玲夜は何も言わず、柚子をその腕の中に引き寄せた。
されるままになってしばらくすると、車が止まった。
扉が開いて外へ出る。
日本家屋の巨大なお屋敷が目の前にそびえ立つ。
あまりの壮観さに開いた口が塞がらない。
「凄っ」
「こっちだ」
玲夜に手を引かれて屋敷の中へと入っていくと、何人もの人に出迎えられた。
「おかえりなさいませ、玲夜様」
旅館のお出迎えのように綺麗なお辞儀で出迎えられて、柚子は目を丸くする。
「あの、ここは?」
「俺の家だ」
「ほぁ」
さすがあの鬼龍院と言ったところか。
柚子の生きてきた世界とは別世界だ。
頭を上げた使用人らしき着物を着た人達が、柚子を目に留めて驚いた表情をする。
その中で一番年配の男性が恐る恐る玲夜に問い掛ける。
「玲夜様、そちらのご令嬢は?」
「俺の花嫁だ。俺だと思って丁重にもてなせ」
「なんと!それは一大事。ああ、何故もっと早くご連絡して下さらなかったのか。そうすれば万全の体制でお出迎え出来ましたものを。
すぐに女性の身の回りのものをご用意して……。はっ、大旦那様にもご連絡しなければ!」
「落ち着け。とりあえず柚子を休ませたい」
「おお、私としたことが、失礼致しました。すぐにお飲み物を用意いたします」
すぐさま動き出した男性に合わせて、他の人達も動き出す。
玲夜は玄関で靴を脱いだ柚子を再び抱き上げて長く続く廊下を歩き始めた。
また抱っこ。
「あの、一人で歩けるから」
「黙って抱かれていろ。自分の花嫁を見つけて、これでも浮かれているんだ」
あやかしにとって花嫁はとても大事な人らしいと、透子や花梨を見て分かってはいたが、それが自分に向けられるとなると何だかむず痒い。
長い廊下を右に左に、どれだけ広いのか。
確実に迷いそうな中を歩いて、やっとたどり着いた部屋。
和風の外観に反して、中の部屋はモノクロで統一された洋室だった。



