「次は容赦しないと言ったはずだ」
あやかしは花嫁へ悪意、危害を与える者には容赦しない。
あやかしの前で花嫁である花梨の悪口を言えば報復されるのは分かっていた。
それでも止められなかった。
破れたワンピースが視界に入る。
すると、柚子はそのワンピースを掴むと、両親を押しのけて、家を飛び出した。
当てもなく、走り続けた所で、息が切れて立ち止まる。
息を整えると、今度はゆっくりと歩き出した。
手がジクジク痛む。
泣きたくないのに、目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
何故泣いているのかも分からない。
破れたワンピースを持って泣きながら歩く柚子は傍目にどう映っているのか。
そんなことを考えている余裕すらない。
柚子が考えていたのは一つのことだけ。
「お祖父ちゃんになんて謝ろう……」
誕生日プレゼントにくれたワンピース。
あの名ばかりの家族達は、今日が柚子の誕生日であることすら忘れているようだが、忘れずにいてくれた祖父母の気持ちが詰まった物。
柚子にとっては換えのきく物ではないのだ。
当てもなく歩き続けて、いい加減頭も冷えてきた。
でも、あの家に帰る気にはならない。
祖父母のところへ行こうか。
けれど……。
柚子は火傷で痛々しくなった手を見る。
こんな姿で行ったら、二人はびっくりするだろう。
きっと柚子を思って怒ってくれる。
けれど、そうすることであの瑶太に祖父母まで攻撃されてしまったらと思うと、足が進まない。
けれど、飛び出してきたせいで、お金もスマホすら持ってきていなかった。
あるのは破れたワンピースだけ。
「はあ……」
人間溜め込みすぎると何をしでかすか分からないものだ、と柚子は思った。
これまでずっと我慢してきたのに爆発してしまった。
夜の歩道橋の上で、自己嫌悪に陥りながら、下を走る車の流れを見ていた。
夜も遅くなってきたので、車通りは少ない。
「痛い……」
片手だけですんだが、かなりの火傷を負っている。
すぐに病院に行った方が良いレベルではないだろうか。
煽った自分が悪いのだが、痛いものは痛い。
痛すぎて、止まっていた涙がまた溢れてくる。
「見つけた」



