顔を合わせないようにリビングには行かず、そのまま自分の部屋へと向かうと、何故か少しだけ部屋のドアが開き、電気が付いていた。
消し忘れたかと、特に不思議に思わず部屋に入ると、何故か部屋に花梨がいた。
そしてその手には、先日祖父からもらった誕生日プレゼントのワンピースがあり、鏡の前でワンピースを体に合わせて見ている花梨。
カッと頭に血が上る。
「何してるの!?」
びくりと体を震わせて振り返った花梨は、柚子を見るとニコニコと笑う。
「なんだ、お姉ちゃんか。急に大きな声出すからびっくりするじゃない」
そもそもここは柚子の部屋だ。
それでも花梨は悪びれる様子はない。
「その服……」
花梨が今持っているワンピースは、まだ紙袋から出さないまま置いていた。
汚すのが怖かったので、次に祖父母と出かける時まで大事に取っておこうと紙袋にいれたままだった。
それでも、もらった嬉しさから、飾るようにテーブルの上に置いていたのだが、どうやら勝手に中を見て取り出したようだ。
「この服可愛いよね。これって今人気のブランドのでしょう。どうしたのこれ?」
「お祖父ちゃんからもらったの」
「えー、いいな、いいなぁ。お祖父ちゃんたら私にも買ってくれれば良いのに。お姉ちゃんだけずるい」
別に花梨は祖父からもらわなくとも、両親や瑶太から散々貢いでもらっているだろうに。
お小遣い以外では滅多に買ってくれない柚子とは違って。
「ねえ、これ貸して。今度瑶太とデートする時に着ていきたいから」
何を勝手なことを言っているのか。
柚子の中に怒りが湧いた。
「嫌よ。いいから返して」
「えー、いいじゃん、ちょっとぐらい。貸してよ」
「貸さない」
断固とした姿勢を見せていると、花梨はムッとした表情をする。
両親と瑶太が甘やかしたせいか、花梨は自分の思い通りにならないとすぐに機嫌を悪くする。
それが分かっているから、大概のことは大目に見るが、それだけは駄目だ。
それは祖父が柚子のために手に入れてくれた大事なプレゼント。
他人の垢を付けたくない。
「いいでしょう。お姉ちゃんばっかりずるい。いつもお祖父ちゃん達はお姉ちゃんにばっかり物を買ってあげて。
私にはほとんどプレゼントなんてしてくれたことないのに」
それは両親が柚子にはしないから、祖父母が代わりに愛情を注いでくれてるだけだ。
なのに、それを理解せず、両親と瑶太から散々甘やかされて、それでもなお足りないと要求するのか。
柚子の苛立ちは募る。
「花梨はお父さん達や恋人からたくさんプレゼントされてるでしょう。
服だって私のを借りなくたってたくさん持ってるじゃない」
「私はこれが着たいの」
「だったら、恋人におねだりしたら?上手でしょ、物をねだるの」
「何それ。私が物乞いみたいな言い方して」
「いいから、それを返して!」
柚子は花梨の持つワンピースに手を伸ばし、引き寄せる。
しかし、花梨も手放すまいと引っ張る。
「お姉ちゃんってば、私に嫉妬してるんでしょ。
私が特別な存在だから。お父さん達も瑶太からも私は愛されてるけど、お姉ちゃんのことはそうでもないみたいだし。
羨ましいから私に意地悪するんだ」
花梨のその蔑むような顔に、柚子は言いようのないショックと怒りが込み上げてきた。
図星だったからかもしれない。
特別な花梨とそうではない自分が。
そして、それを認められほど、まだ柚子は諦めきれていなかったのかもしれない。
「いいから返して!」
思い切り引っ張る。
すると、ビリッと布の破ける嫌な音が耳に響いた。