その日は祖母がケーキやご馳走を用意してくれて、早めの誕生日パーティーを祖父母と祝い、土日は幸せな気持ちで過ごした。

 けれど、いつまでも長くは続かない。

 嫌でも、平日になれば家に帰らなければならなくなる。

 昼間は問題ない。
 学校には透子がいてくれるから。
 くだらない話をして、お腹が痛くなるほど笑う。
 その日は透子から誕生日プレゼントももらって、楽しく過ごした。


 けれど家では相変わらず柚子を取り残して会話を弾ませる両親と花梨を、壁の外のことのように感じながら夕食を取る。

 その後、食器の後片づけをしていると、家のチャイムが鳴った。

 インターホンから聞こえてくるのは瑶太の声。


 花梨は嬉しそうにしながら玄関に走って行った。

 瑶太はこうして、暇を見つけては花梨に会いに来る。
 毎日学校で会っているのだからじゅうぶんだろうにと柚子は思うのだが、それでは足りないらしい。
 あやかしの、花嫁への執着はそれだけ重い。
 本当は一緒に暮らしたいようだが、花梨がまだ未成年で学生ということで、その話は進んでいない。

 とっとと出て行ってくれれば、こちらも少しは過ごしやすくなるのに。
 そう思ってしまうのは、姉として最低なのかもしれないと柚子は自嘲するも、そう思わずにはいられなかった。


 すぐに戻ってきた花梨の横には瑶太がおり、二人の手はしっかりと握られている。


 二人の仲が良いのは両親達にとっては喜ばしいことだが、柚子はそんな二人を見るのが苦痛で仕方ない。

 愛されない自分を知らしめられているようで。


 さっさとこの場から離れるために、手早く食器を片付けると、花梨を中心に盛り上がる人達のいる場所を後にする。


 そして、いつもより時間を掛けてお風呂に入りながら、その間に瑶太が帰ってくれないかという希望が胸を占める。

 まあ、無理だろうが、お風呂場はこの家で柚子が逃げられる数少ない場所だ。

 ほっと一息吐く。


 自分はいったいいつまで、こうして家族から逃げ続けるのだろうか。
 祖父母もいい年齢。いつまでも助けてくれるわけではない。
 祖父母がいなくなってしまったら、本当に柚子は一人だ。
 それが、この上なく怖い。


 けれど、今からそんなことを考えていたって仕方がない。

 高校を卒業したら、どこか遠くの大学に進んで、家を出て一人で暮らそう。

 そうすれば、こんな風に疎外感に苦しみ、煩わされることもない。

 家とは縁を切るつもりで。


「ふう……」


 少し長湯しすぎたかもしれない。

 お風呂から出て、髪や体を乾かす。