俺は、学校帰りの涼介を待ち構えている。

校門を出てくるその姿を、ようやく見つけた。

「おい、涼介! 俺と契約しろ!」

そう言うと、涼介はプッと吹きだした後で、すぐに笑い転げた。

「なにがおかしい!」

「だって、獅子丸が面白いんだもん」

「俺は真剣だ!」

「俺だって真剣だよ」

涼介は笑う。

「だから、獅子丸とはケンカしたくない。ずっと、仲良くしていたい。獅子丸が、獅子丸でいられますように」

涼介の手が、俺の手に触れようと伸びてきて、俺はそれを振り払う。

だけど俺からは触れられないそれは、するりとすり抜けて宙に浮いた。

涼介の手は、俺の腕にそっと触れる。

「意味が分からん。俺はいつだって、俺のままだ。俺との契約を交わそうとしないお前の言葉なんて、誰が信じられる?」

俺はぐっと、拳を握りしめる。

「何度でも言おう。俺はお前の魂を、魔界に持って帰る。俺にはそうしなければならない、理由と責務がある」

涼介は何も言わず、じっと俺を見ている。

その柔らかな視線に、俺の神経は逆なでされる。

「お前もそうやって、やっぱり俺をバカにするんだな。お前が俺と契約しないのは、結局俺が悪魔だからじゃないか。これが天使のアズラーイールとなら、簡単にサインしたんだろ」

「違う。それは違うよ、獅子丸」

「ふざけんな。お前のそんなあいまいな態度に、俺はもう、いい加減うんざりしてるんだ。もういい、十分だ。お前がその気なら、俺にだってやり方はある」

俺は呪文を唱え始める。

天使の祝福にも負けない、強力な呪いだ。