「俺の弟は、一佐は、すごく頭のいい子で、賢くて、俺なんかよりずっといい子で、母さんの連れ子だったから、血のつながりはなかったけど、好きだったよ」

そのよく出来た弟は、ギャアギャアとわめき散らし、暴れ、敵意をむき出しにして、涼介に襲いかかる。

だけど、所詮そんなことをしても無駄なのだ。

霊だって、生身の人間には触れられない。

「そうか。なぜ死んだ」

「……。それは、ちょっと言いたくない。病気、だったんた」

鼓膜が引き裂かれそうなほどの雄叫びを上げるから、俺は思わず笑ってしまう。

あぁ、この兄弟は、本当に兄弟だったんだな。

「仲はよかった?」

「それなりにね」

悪魔の俺にとって、罵詈雑言の類いは、聞いていてとても気分がいい。

「仕方ない。じゃあこの弁当を食ってやるか」

「そうしてくれると、弟もうれしいと思うよ」

さすがの霊魂も、俺に対しては無駄な攻撃をためらうらしい。

確かに、頭は悪くないようだ。

「涼介にとっては、どんな弟だった?」

「ん? そうだな、色々あったけど、かわいくて面白い弟だったよ」

弟からの記憶が、思念として俺に送られてくるのを、俺は完全にシャットダウンする。

醜い顔を歪ませるその姿を、涼介にも見せてやりたい。