そうやって本のページを広げたまま、いつの間にか眠っていたらしい。

サランは俺が目覚めるタイミングを見計らったように、いつも出来たての朝食を運んでくる。

それはいつだって、間違えたことはない。

「お勉強は出来ましたか?」

俺はむくりと起き上がった。

悪魔が悪魔にそう言う時は、大概はイヤミか悪口だ。

俺以外の魔界の奴らが、研究者以外で本を読んでいるところなど、見たことはない。

それはサランも同じだった。

「まぁ、ちょっとはね。参考になったよ」

悪魔は頭では考えない。

自分の本能からくる衝動を全ての知識の源とし、そこに経験を加えていくだけだ。

だから、本を読んだだけで何かを分かった気分になる人間のような俺を、やはりヒトから生まれた仔だと馬鹿にする。

ここでは本を読んだり書いたりするような奴らは、無能の証だ。

「それはよろしゅうございました」

それを唯一黙認しているのは、このサランだけだった。

サランは父さんに言われて人間の心臓をその腹に宿し、自分の体内で育ててからそれを吐き出した。

俺は父さんの狩った人間の心臓を元に、炎竜の腹で作られた悪魔だ。

サランは育てろと命じられたから、今でもそうしている。

「着替えたら、出かけてくる」

朝食のセットをテーブルに並べてから、立ち去るサランの背中に向かって、俺はそう言った。

温かな湯気がたちのぼるスープとサラダ、薄く切った肉が、扇状にきれいに並んでいる。

どこにも非の打ち所がない、完璧な朝食だ。

毎日メニューの変化はあっても、これだっていつもと変わらない風景で、サランはいつも淡々と、与えられた仕事をこなす。

俺はそれに手をつけないまま、部屋を後にした。