夜だから外の様子は良く見えないが、これからどんどんほころび始める庭の大きな桜の向こうに漆黒の闇が広がっている。

闇なかに光はほとんどなく、光と言えばぽつ、ぽつ、とほたる火のように頼りない街灯の明かりがわずかに見えるくらいである。

田舎。

そう、ここは田舎。

隣家まで少し距離があり、道路には軽トラが走りすれ違えば軽くクラクションを鳴らしたり、窓を開けて車を道のど真ん中で止めて話をするくらいには田舎。

お隣さんまでは徒歩1分だが、広々とした田んぼと畑と、その間を流れる川がいくつか走る。

小学校、中学校。田舎には珍しく高校もあるが、ほぼジャージ登校が許されているくらいには田舎。

近所のスーパーまでは車で15分。最寄りのコンビニまでは20分。

住宅街と言うものもあるにはあるが、小さな集落がちょろっと集まっているくらいの規模である。

バスは1時間に1本。

電車が走り駅舎もあるが、ほぼ無人駅で最近導入されたばかりの無人改札におじいちゃんやらおばあちゃんやらが面食らって固まっているのを良く見かける。

町全体の人口は少なくはないが、多くもない。防災無線や町のお知らせが毎日12時と18時になるくらいには狭い町だ。

太陽が出る方角には海があり、漁船が走り、漁師も多い。

夕凪が沈む方角には山があり、畑が段々と整列し、秋には豊かな実りでいっぱいになるくらいには農耕が盛んである。

瀬戸内海に面する秋津町(あきつちょう)
ここが私、ーー御剣美琴(みつるぎみこと)の住む町である。