「店長がいいって言ってんだから、何も買い取る必要なかったんじゃないの?」
「私が全部落としたんだもん。そんなのダメよ」
「ホントにクソ真面目だよね。それにしても、会社じゃしっかりして見えるけど、先輩って案外抜けてるよね」
「うるさいわね! その話はもう止めにしてったら」
「相良たちに話したら、あいつら大喜びで言いふらすんじゃねえ?」
「いい加減にしないと、これ食べさせないわよ」
 面白がって、いつまでもからかうことを止めない上村に腹を立てた私は、揚げたてのエビフライの山を指差した。レモンの代わりにお皿に添えるのは、もちろんくし切りにしたグレープフルーツだ。
「わかったから、菜箸振り回すなって。でもどうすんですか、こんなにたくさんのグレープフルーツ」
「全部食べるわよ。食べるに決まってるでしょう?」
 冷蔵庫に入りきらなくて、スーパーの袋に入れたまま床に置いたたくさんのグレープフルーツを指差して、上村がまた小ばかにしたように笑う。
 結局私は、傷物になったグレープフルーツを全て買い取った。今日からしばらくは毎食グレープフルーツだ。大丈夫よ、こんなに美味しいんだもの。これくらい、別にどうってことない。
「俺がまた食べに来てあげますよ。なんなら毎日来てあげようか?」
「結構よ」
いつまでたってもクスクス笑いを止めない上村を、私は半ば本気で睨みつけた。
 そうよ、元はと言えばこうなったのは上村のせいじゃない。
上村がうちにグレープフルーツを持って来るようにならなければ、私だってあの棚の前で立ち止まったりしなかった。グレープフルーツなんて買おうと思わなければ、こんなにたくさんのグレープフルーツを傷物にしなくてすんだはず。
私は、思わず上村に八つ当たりしてしまいそうになるのをぐっと堪えた。
 でもさっきの事件のおかげで、先週からずっと続いていた上村との間の気まずい空気は消えていた。……私はむしろ、今日我が家にやって来たグレープフルーツたちに感謝するべきなのかもしれない。