「さっすが、美奈子。早速上村くんにべったりですね」
 お座敷の上座に座っているのは野々村部長。部長から見て右側の席に上村が座り、上村の隣にはずっと美奈子が張りついている。
「もう響子ったら、お酒弱いんだからほどほどにしておきなよ」
 調子に乗って酎ハイのおかわりを頼む響子をやんわりとけん制した。
「だいじょーぶですよ。三谷さんが送ってくれるから」
「ちょっと、毎回毎回勘弁してよ」
あいかわらず調子のいい響子に、笑いを滲ませてそう返した。
 お酒に弱いくせに毎回飲みまくっては潰れる響子にうんざりもする時もあるけれど、実はちょっと感謝もしている。
響子が毎回一次会で潰れてくれるおかげで、私まで二次会に行かなくてすむからだ。義務感から仕方なしに二次会に顔を出したものの、後輩の女子社員たちに嫌な顔をされるのは、正直言って気分がへこむ。
「えっ!? それ本当なんですか?」
 座敷の奥の方から二宮さんの大きな声が響いた。ざわついていたその場が一気に静まり返る。
「私、就職説明会で女性もいずれ総合職に就けるようになるからって言われたから、この会社に入ったんですけど!?」
 興奮して周りが見えなくなっているのか、二宮さんは席から立ち上がり、隣の女性社員に食って掛かっていた。
「どうかしたのか?」
 それまで部長や美奈子をはじめ、他の女性社員たちと和やかに飲んでいた上村が彼女たちの席へと向かった。
「あ、上村さん。実は入社前に聞いたことと、色々話が違ってて……」
「……そっか。とりあえず座って話そうか」
 上村にそう促されいくらか冷静さを取り戻したのか、二宮さんはおとなしく従った。
「あれですかね? 毎年恒例の」
「そうかもね」
 響子が「またか」という顔で私を見た。
 うちの会社では、女性はほぼ全員、入社後いったんは一般事務系の仕事に回される。
建前上、募集要項では男女を問わず総合職も募集となっているけれど、現実はそんなに甘くはない。
希望を出し続けても、途中から総合職に回してもらえた人は、ごくわずか。私にも、これまで一人二人くらいしか記憶にない。
 入社してからそのことを知って、やる気を失くしてしまう女の子も多い。中には会社に見切りをつけて、さっさと転職してしまう子もいるくらいだ。
 上村はきっと二宮さんのことをうまく説得しているのだろう。
はじめは涙ぐんでいたのに、上村と話すうちに落ち着いたようで最後には彼女も黙って上村の言葉に頷いていた。