その時、頬に触れていた上村の指が私から離れ、上村は両腕で私を包み込んだ。きつく抱きしめられ、息ができなくなる。
「それでも私は誰かに縋って生きたくないの。一人で立っていられるようになりたい」
「それで……先輩は寂しくないんですか?」
 上村は、さらに私を抱きしめる腕に力を込めた。上村の体温を全身で感じ、強張っていた体から少しずつ力が抜けていく。頭では『ここにいてはダメだ』と思うのにどうしても体が動かない。
このままでは、あの日心に蓋をして押し込めた感情が、再び溢れ出してしまう。そんな私の必死の葛藤を、上村はいとも簡単に押し流した。
「俺にはもっと吐き出していいんですよ、先輩」
「う……っ」
 上村の優しい言葉と体温に心と体の緊張が解けて、ついに本音がこぼれ落ちた。
「……寂しい。母さんを失うのが怖い。本当は一人になりたくない……」
 上村は私の顔を持ち上げると、涙で濡れたまつげにそっとキスをした。それが合図となり、私を覆っていた最後の鎧がポロポロと剥がれ落ちていく。
 たとえ一夜だけでもいい、この苦しみを上村が忘れさせてくれるなら。
――気がつけば、上村のキスを受け入れていた。
 両手で顔を引き寄せられ、唇を開く。舌を絡め、窒息しそうなほど苦しいキスをした
息を継ぐ間もないほど激しいキスに、色んな感情でぐちゃぐちゃだった頭の中が真っ白に塗り替えられていく。
 そのまま二人もつれるようにソファーの上に倒れこんだ。
 上村の大きな手のひらが私の肌の上を滑り、触れられた場所が熱を持つ。体中に広がっていく。
それは、上村の体温なのか、それとも自分が発する熱なのか。それすらも判然としないほど、互いの肌がピタリと吸い付いた。
 上村の唇が耳、首筋、鎖骨と順序良く私の体を滑り降りていく。濡れた感触が膨らみのその先に届くと、たまらず私は悲鳴をあげた。
心地よくて、このままではきっと身体が溶けてしまう。思考の全てを奪い取られ、心も身体も上村に支配されていく。
 今この瞬間、私の全ては上村で満たされた。一夜の酔いに、全てを忘れた。
 その夜、私はただひたすらこの年下の男に溺れた。