「ここのオーナーシェフ……僕の親父なんですけど、本当に昔気質で頑固で。二号店のお話をいただいて、僕はすぐにチャレンジするべきだって言ったんだけど、親父は『今いるお客様のために精一杯出来ることをやればいい、二号店なんて必要ない』って言い張るばかりだったんですよね……」
比良さんはその頃のことを思い出したのか、苦笑を浮かべた。
「僕も東京のホテルで学んできたことを活かしたくて。使う素材にしろ料理のやり方にしろ親父と一緒にどんどん新しいことにチャレンジしたかったんですけど、親父はずっと僕のこと全否定で。仕事への情熱を失いかけていた時に上村さんに出会ったんです」
そう言って比良さんは、黙ったままの上村を見る。それに応えるように、上村は手にしていたカップをテーブルに置いた。
「一度、ちょうどランチで店が混んでいた時に上村さんがいらしたことがあって、僕に『お客様の顔を見てみてください』って」
「お客様の顔?」
意味がわからず、私は上村を覗きこんだ。でも、上村と視線は合うことなく、表情からも何も読み取れない。
「どのお客様もこのお店の料理に心から満足してる。みんな親父の料理が好きでこの店に来てる。この店を新しく作り変えるのではなく、お互いのいいところを取り入れた新しい店を作りませんか、って……」
「オーナーがこれまで築いてこられた伝統を守りつつ、比良さんの画期的なアイデアをいかせる店をこれから作ればいいんです。お二人の夢を現実にするために僕らがいるんですから」
その瞳の力の強さに驚く。……上村はこんな顔をして仕事してるんだ。
「今まで以上にお客様を呼べるお店を一緒に作りましょう、比良さん」
「はい!」
再び比良さんが上村に握手を求めた。希望に溢れた顔で、固い握手を交わす上村と比良さんのことがとても眩しく思えた。
比良さんは、その後も二号店の構想や試作中の新メニューのことなどを話してくれた。上村はその一つひとつに丁寧に耳を傾け、時には自分の考えも躊躇なく述べる。こんなふうに熱く語る上村の姿を見たのは初めてだった。
私は白熱する二人に圧倒されて、ただ見守ることしかできなかった。
「三谷さん、すみません。せっかくお休みの日に食事に来て下さったのに仕事の話ばかりしてしまって」
「いえ、お話とてもためになりました。食事も美味しかったです。ありがとうございました」
「またいらしてくださいね。お待ちしてます」
仮屋さんは私たちが見えなくなるまで、店の前で手を振っていた。気さくな仮屋さんの人柄と料理への真摯な姿勢に、お腹だけでなく心まで満たされたような気がした。
比良さんはその頃のことを思い出したのか、苦笑を浮かべた。
「僕も東京のホテルで学んできたことを活かしたくて。使う素材にしろ料理のやり方にしろ親父と一緒にどんどん新しいことにチャレンジしたかったんですけど、親父はずっと僕のこと全否定で。仕事への情熱を失いかけていた時に上村さんに出会ったんです」
そう言って比良さんは、黙ったままの上村を見る。それに応えるように、上村は手にしていたカップをテーブルに置いた。
「一度、ちょうどランチで店が混んでいた時に上村さんがいらしたことがあって、僕に『お客様の顔を見てみてください』って」
「お客様の顔?」
意味がわからず、私は上村を覗きこんだ。でも、上村と視線は合うことなく、表情からも何も読み取れない。
「どのお客様もこのお店の料理に心から満足してる。みんな親父の料理が好きでこの店に来てる。この店を新しく作り変えるのではなく、お互いのいいところを取り入れた新しい店を作りませんか、って……」
「オーナーがこれまで築いてこられた伝統を守りつつ、比良さんの画期的なアイデアをいかせる店をこれから作ればいいんです。お二人の夢を現実にするために僕らがいるんですから」
その瞳の力の強さに驚く。……上村はこんな顔をして仕事してるんだ。
「今まで以上にお客様を呼べるお店を一緒に作りましょう、比良さん」
「はい!」
再び比良さんが上村に握手を求めた。希望に溢れた顔で、固い握手を交わす上村と比良さんのことがとても眩しく思えた。
比良さんは、その後も二号店の構想や試作中の新メニューのことなどを話してくれた。上村はその一つひとつに丁寧に耳を傾け、時には自分の考えも躊躇なく述べる。こんなふうに熱く語る上村の姿を見たのは初めてだった。
私は白熱する二人に圧倒されて、ただ見守ることしかできなかった。
「三谷さん、すみません。せっかくお休みの日に食事に来て下さったのに仕事の話ばかりしてしまって」
「いえ、お話とてもためになりました。食事も美味しかったです。ありがとうございました」
「またいらしてくださいね。お待ちしてます」
仮屋さんは私たちが見えなくなるまで、店の前で手を振っていた。気さくな仮屋さんの人柄と料理への真摯な姿勢に、お腹だけでなく心まで満たされたような気がした。