「それで、リクエストは何。唐揚げ? ハンバーグ?」
「ちょっと。何ですか、その子供メニュー」
 そう言うと上村はまたケタケタ笑う。
「だって、上村よく食べるから」
「そういうのもいいけど、たまには和食が食いたいっすね」
「和食ねえ。でもそんなので、上村はお腹膨れるの?」
 上村からのリクエストを受けて、もう一度冷蔵庫を開けたみた。
……うん。和食なら有り合わせのものでなんとか作れるかも。
「家庭の味に飢えてるんですよ」
「それなら、実家にでも帰ればいいのに」
 上村の返事がない。不思議に思い一旦冷蔵庫を閉め振り向くと、上村は黙って風に揺れる浴衣を見つめていた。
「……先輩、浴衣着て祭りにでも行くの?」
 私は窓辺へ行き、浴衣をハンガーから下ろした。あまり遅くまで干していると、湿気が入ってしまう。
「まさか、ただの虫干しよ」
「虫干し?」
「1年に数回こうやって浴衣を風に当てるの。こうすると長持ちするのよ」
 床に広げた風呂敷の上で、丁寧に浴衣を畳む。新しいたとう紙を取り出し、浴衣を仕舞った。上村はその様子を興味深そうに見ている。
「先輩って年齢のわりに色んなこと知ってますよね」
「これは……母が和裁師をやってたから、教わったの」
「ああ、それで」
「この浴衣、母からの結婚祝いだったの。母はこれを着て私が鳴沢さんとデートに行くの楽しみにしてた」
「……叶わなかったわけですね」
「まあね」
 それきり、上村はもう何も言わず、ソファから外の景色を眺めていた。
私の苦い過去の話に気を遣って黙っていてくれたのか、それとも端から興味などないのか。
無表情の上村からは、何も窺い知ることは出来なかった。