「……はあっ」
緑茶の香りを楽しんでリフレッシュできた私とは反対に、二宮さんは物憂げに深いため息をついた。
「どうかした?」
「あ、すみません。つい……」
「何か心配事? 私でよければいつでも聞くわよ」
 そう言うと、彼女はなんとも気まずそうな顔で私を見上げる。
「あの、やっぱりこの会社もお茶汲みは女性の仕事なんですか?」
「そういうわけでもないけど。二宮さん、お茶汲みは嫌?」
「今どき女性ばかりがお茶を入れるだなんて、先輩は男女差別だと思わないんですか?」
「べつに思わないわ」
「えっ?」
私が言いきると、と二宮さんは口を開けたまま、再び固まってしまった。
「お茶ってリラックス効果があるでしょう?」
「はい?」
 私を見る二宮さんは、「この人は突然何を言い出すの?」とでも言いたげだ。それでも構わず、私は話を続けた。
「たとえば、残業続きで疲れてる営業さんがいるとするでしょう。朝から美味しいお茶を飲めば、リフレッシュできてまた今日一日頑張ろうって思ってくれるかもしれない。企画会議中、なかなかいいアイデアが出なくてみんなして煮詰まってたのに、自分の入れたお茶で気分転換ができて、新しい発想が生まれるかもしれない。例えはちょっと大げさかもしれないけど、お茶一杯でみんなが気分良く仕事してくれたらそれだけでも嬉しいと思わない?」
「あ……」
 二宮さんの表情が、ほんの少し明るくなった。わかってくれたみたいで、私も嬉しくなる。
「考え方次第で、どんなにささいな仕事でも、やりがいって変わってくると思うの」
「そう……なのかもしれないですね」
 二宮さんなりの気づきがあったらしく、みるみる表情が明るくなる。
「これから一緒に頑張りましょうね」
「はい!」
 二宮さんは私の言葉に笑顔で頷いてくれた。私も満足して、彼女に笑みを返した。