「甘えないでよ。言われたことも満足にできないくせに、それであんた胸張って会社に貢献してるって言えんの?」
 美奈子の顔が、怒りでみるみる真っ赤になっていく。
「暇があれば男漁って合コン行って。会社は結婚相手探すところじゃないのよ。仕事をするところなの! あなた、そんなこともわかんないの?」
 私の言葉に興奮したのか、握り締めた拳が小刻みに震えていた。
「っるさいな!! あんたなんか、あんたなんか……」
 突然美奈子が手のひらを大きく開き、振りかぶった。
『ぶたれる!』そう思った私は、咄嗟に両手で顔を覆い、きつく目を閉じた。
「相良っ! やめろ!!」
 バシーン、と派手な音が給湯室に鳴り響いた。でも私はどこにも痛みを感じない。
恐る恐る目を開けると、私の目の前に、真っ白なシャツの背中が見えた。
「ってぇ」
「……上村?」
 上村が私の前に立ち、片頬を手で押さえていた。
どうやら美奈子の手のひらは、上村の顔をヒットしたらしい。頬を押さえる上村の指の間から、うっすらと赤くなった皮膚が見える。
「ううっ……、ひっく……」
 美奈子はいきなりしゃくりあげると、へなへなと床に崩れ落ちた。
「一体どうしてこんなことになってるんですか」
「え……?」
 上村の冷たい声音にドキリとする。上村の視線は私を向いている。
……どうして、暴れていた美奈子ではなく私に訊いてくるんだろう。
「三谷さんが……、美奈子にひどいことを言うから」
「はっ?」
取り巻きの一人の言葉に驚いて、私は言葉を失くした。上村は、一度大きく息を吐くと、ゆっくりと私を振り返った。
「……そうなんですか、先輩」
「わ、私は……」
 上村の非難のこもった視線に射抜かれ、それ以上言葉を継ぐことが出来ない。美奈子は上村の腕に抱かれ、小さな子供のように泣きじゃくっている。
「とにかく、相良はしばらく医務室に連れて行きます。……先輩はちょっと頭冷やしてください」
 上村は美奈子の腰に手を添え立ち上がらせると、そのまま給湯室から出て行った。
上村の態度、……まるで私のことを拒絶しているようだった。
ショックのあまり、言葉がなにも出てこない。
「……いい気味」
 突然取り巻きの一人がつかつかと私の方へと歩み寄ってきた。正面に立ち、冷めた目つきで私のことを睨み付けてくる。