週明け。久々に続いた晴天は一転して、今朝から再び雨が降り出した。
今は小康状態だけれど、バスを降りて見上げた空は今にも土砂降りになりそうな鉛色だ。
「また大雨がくるのかな。いやだな……」
 降り出す前に社内に入ろうと、と私は歩くスピードを上げた。
「お、来たな三谷。おはよう」
 オフィスについて早々、野々村部長に声を掛けられた。
低血圧で朝に弱いからと言って、いつも朝礼ぎりぎりに出社する人なのに。私より早く着いてるだなんてどうしたのだろう。
やっぱり今日は大雨なのかも……なんて思ったことはおくびにも出さず、部長に挨拶を返した。
「おはようございます部長。すぐにお茶をお持ちしますね」
「んー、お茶はいいからさ。三谷ちょっと来てくれる?」
 手招きをされ、部長席まで行くと、一枚の書類を手渡された。
「……何ですか、これ」
 書類の真ん中には『オアシスタウン事業部への異動を命ずる』と書いてある。
「……ええ?」
「というわけだから。引継ぎよろしくな」
「ちょ、ちょっと待ってください。本当に私が?」
「そうだよ、おめでとう」
 部長は能天気に握手を求めてくる。
「上村の異動はうちに来る前から決まってたことだけれど、まさか三谷まで連れて行かれるとはなあ。正直うちには大打撃だけど、せっかく選ばれたんだから頑張れよ」
「……はい、ありがとうございます」
 まだ、信じられない気持ちだった。手渡された書類をまじまじと見る。書類の上部には、間違いなく私の名前が書かれている。
「ずっと三谷が中心になって外食部を引っ張ってきてくれたからなあ。俺は本当は、三谷を外に出したくないんだけどな」
 そう言って、部長は鼻の頭を掻く。
どうやら部長は、自分の言葉に照れているらしかった。
 自分が今までコツコツやってきたことがちゃんと会社に認められたんだ。最初は戸惑ったけれど、じわじわと体中に喜びが湧き上がってくる。
「朝のお茶も、中山あたりにちゃんと引き継いどいてくれよ。あれがなきゃ俺は仕事にならん」
「わかりました。とりあえず今から入れて来ますね」
「おう、頼む」
 それだけ言うと、部長はすぐにパソコンに向かう。
部長の仕事が捗るように、とびきり美味しいお茶を入れてこよう。
私は部長にもう一度頭を下げると、給湯室へと向かった。