「ところで先輩、女性社員も何人かプロジェクトのメンバーに入れるって知ってます?」
「知ってるも何も、女の子たちはみんなその話題で持ちきりよ」
 まだ飲み足りなさそうな上村の表情を見て、空になった上村のマグにおかわりを注ぐと、上村は「ありがとうございます」と軽く頭を下げた。
 女子社員たちの関心は、プロジェクトそのものではなく、誰がメンバーに入るかということらしい。うちの部からは美奈子で間違いないだろうというのが、彼女たちの予想のようだ。
「あっちに移ってからも一緒に働けたらいいですね、先輩」
 皿洗いに集中する私を、上村が横から覗き見る。にやけた表情に私は眉をしかめた。
「どうして私が。何であんたと」
 プロジェクトそのものには興味あるけど、やっぱり社内ではあんまり上村に関わりたくない。
「先輩のように人の動きや考えを読んで、先回りして行動できるような補佐がみんな欲しいんですよ」
そう言ってマグを持ち上げる。どうやらさっきの珈琲のおかわりのことを指しているらしかった。
「それはまあ……営業の人たちが仕事をしやすい環境をつくるのが、私たち補佐の役目だと思うし……」
「うちの女性社員たちの中で、どれだけの人がそんな意識で仕事してるでしょうね?」
「はは……」
上村の問いに、私は苦笑いで答えることしか出来なかった。
 私自身いつも口を酸っぱくして言っていることなのだけれど、後輩たちにはなかなか伝わらないことでもある。
「与えられた仕事をこなしただけで『自分はちゃんと仕事してる』って満足しちゃう子があまりにも多いんだよね……」
 そう言いつつ、ついため息が漏れる。
どうすれば、後輩たちにもっと素直にアドバイスを聞き入れてもらえるのか。こればかりは、自分の力不足を感じずにはいられない。
「先輩が選ばれたりしたら、面白いことになりそうなんですけどね」
「なにそれ、勘弁してよ」
 これ以上悪目立ちして、女の子たちの標的になりたいわけではない。
 どうせ面白がっているのだろう。上村のにやけた表情に、私はなんだか妙な胸騒ぎを覚えた。